8ー1
十一月は、暖冬のおかげであたたくて、油断してるとすぐ汗ばんでしまう。
劇場部だけど基礎体力をつけなきゃいけないので、柔軟体操やランニングは欠かせない。
おかげで人並みにやせて見えるけど、筋肉だから体重はほかの子より重いかもしれない。
蓮とか葵くんとか、わたしより体重なさそう。つらいっ。
男の子って、どうして同じだけ運動してるのに体重にあらわれないのか謎めいている。
そんな中、断食ダイエットを始めたクラスメイトがついに倒れた。無理は禁物だね。
それにしても、そこまでやるかな?
人間のダイエットもままならないのに、うちのしば犬もダイエットをさせるように獣医さんから言われてしまった。
普通のしば犬なのに、十五キロにまで増えてしまったのだ。薬代もぐんと釣り上がるし、減量用のフードを与えなければならない。
なにより、すっごく楽しみにしてくれているおやつをあげられないのがすごくつらいっ。
あのまるっとしたうるうるの瞳に見つめられても、おやつをあげられないだなんて。
それと焼きいもも好きなんだよね。そろそろ焼きいものシーズンなのに、わたしも焼きいもを我慢しようと心に誓った。
だって、わたしが焼きいもを食べていたら、しばくんも食べたくなってしまうでしょう?
ほかに人間とおなじものは与えないようにしているから、きっとフードも変わって少しはやせるよね?
無理は禁物だけど。
「いち花、相談に乗って欲しいんだけど」
「どうした? 凪」
「『しあわせの王子』ってどう思う? あんな王子みたいな奴、存在してると思う?」
しあわせの王子とは、銅像になった王子が、人間の不幸を目の当たりにして、自分の身体に貼られた金をツバメにはこんでもらうお話で、これがまた解釈次第ではしあわせなのかもしれないけど、どう見ても完璧なバッドエンドでしかない。
「もしいたら、その人の人格を変えてあげたいくらいだよ。物語だからいいけど、実際他人のために自分を犠牲にするなんてあっちゃいけないよね?」
最終的に周囲を不幸な目にあわせていることに気づいてくれるかで違ってくるけど。
「そんなわけで、『しあわせの王子』をやろうと思うんだ」
「いいよ。だけど、どうして凪はいつも最初にわたしに相談するの?」
「だっていち花は劇場部の部長だし、気合も入ってるし、おさななじみだし」
え? なんで? わたし、どうして顔が赤くなってるの?
おさななじみっていうワードがすでにしあわせになれないような、踏み台にされてる感じがしてるっていうのに。
つづく




