7ー1
照明係だった筒香 純くんの後に照明係として立候補してくれたのは、わたしとおなじクラスの仁科 葵くんだった。
元々劇場部に興味を持ってくれていて、都度都度観劇してくれる常連さんだったから、ウェルカムで受け入れた。
ちょっとした照明のテストでも簡単に合格したのは葵くんだけだったし、なかなか筋がいい。
これで十月公演も乗り切れると思ったところで凪がスランプにおちいった。
いわゆる『アリとキリギリス』のキリギリスのように、いつでも簡単に書くことができると高をくくっていたのがわざわいしたらしい。
凪のことを天性の天才と思っていたわたしからすれば、ものすごく意外だった。だっていつも、簡単に原稿渡してくれるから。
だけど。やっぱり凪も人間なわけで。
スランプにおちいってるって言うから、部活で梨を剥いてあげたら一人で丸かじりするっていうからまた驚いた。
いくら梨の産地とはいっても、割と近年では高価なものになってきてるから、みんなで分けて食べようって言ったら、いいよなんて簡単に答える。
ふむ。天才はよくわからないところで孤独を抱えているみたいだね。
「はい、あらためてどうぞ」
だけど横を見たら凪以外の三人が器用に梨を剥いていて、わたしより皮が薄いから、ちょっとジェラシー感じてしまった。
本当は凪も剥くことができるんだけど、今は原稿を前にうんうん唸ってる。
そんなんじゃせっかくの梨の風味がわからないんじゃないって思っていたら、突然来たって叫んでるし。
「誰か来た?」
わかっているくせに、わざわざおどけてみせる蓮。こんなこと、蓮じゃなければゆるされない。
「作品わいた?」
陽稀はごく当たり前というように聞いたのに、凪はまたうつむいてしまった。
「なんか浮かびかけたけど、梨のうまさで全部吹き飛んでしまったよ」
それは残念。でも凪だから。必ずやいい結果を残してくれると信じている。
それにしても葵くん。蓮に引けを取らないくらいに可愛い系だな。ずっと見てると癒される。
癒し系爆誕だ。
手のひらは小さいけど、指が長くて包丁を持つ手が危うくない。
梨になりたい女子がたくさん出てきそう。
人生の中で、身ぐるみ剥がされたくないけど、梨なら剥いてもらってもいっかぁ。リンゴとかにも応用できるし。
ちなみにわたし、桃は剥けません。なぜって、やわらかすぎて実の方を握りしめてしまうから。
だからかな? 桃剥き担当は凪なんだよな。彼ってもしかして、器用貧乏なの?
つづく




