6ー1
九月公演は、わが劇場部にとって忘れることのできないものとなるだろう。
陽稀とおなじクラスで照明係をやってくれていた筒香 純くんが引っ越すことを知ったからだ。
「きっかけはオヤジでさぁ。なんか、変なオンナにつかまったって」
やたら正直者なイメージのある『精肉店 筒香』の店主である純くんのお父さんが、スマホのワンクリック詐欺に引っかかって、破産寸前まで追いつめられているという。
当然、九月になってもなかなか学校に姿をあらわさない純くんのことを最初に気づいたのは陽稀だった。
その時、『精肉店 筒香』に劇場部のみんなと行った。
純くんは居留守を使って、息をひそめていたという。
破産手続きがもうすぐとあって、照明係は降りると言った。
「ぼくたちは構わないけれど。筒香くんはそれでいいの?」
できれば二年生が終わるまで五人一緒に頑張りたい。だけど、そうも言ってられないのは凪にも痛いほどわかっているだろうに。
それでも言わなければおさまりがつかないのだった。
「途中で投げ出すのはすごく残念だし、申し訳ないけど、やっぱり俺だけここに残ることはできないから」
てっきり精肉店を引き継ぐのだろうと達観していただけに、純くんの脱退は痛い。
そしてなにより、わたしたちはまだまだ子どもで、彼のためにできることはなにもないのだった。
「わかったよ。九月公演は筒香くんのために書くから、その時だけ顔を見せてくれないかな? だってきみ、今までずっと照明係としてしかぼくたちのお芝居を見ていなかっただろう?」
純くんは、そんな凪の言葉に涙を流した。
「うん。ありがとう。ぜひ観劇させてもらうよ」
「だから今回は特別に喜劇だからね。たくさん笑ってくれるとうれしいな」
どうやら、凪の頭の中では作品が動き出しているみたい。二年生になってから初めての喜劇。これはもう楽しむしかないっしょ。
どうか、その作品で純くんの心が少しでも軽くなりますように。
そのためには、わたしも頑張らなくちゃ。
なんたって、劇場部の紅一点だからね。
さて、なんの作品が来るかな?
つづく




