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5ー6

 アンデルセンの『人魚姫』を大胆にアレンジしたこの作品は、拍手喝采で幕を閉じた。


 久しぶりにすっきりした終わり方に、わたしたちは充実した時間を味わうことができた。


「やったね、凪」

「いち花はさぁ、ぼくが王子じゃなくても友だちでいてくれるかい?」

「もちろん。今でもこれからも王子になることはないでしょう? 仮になったとしても、ずっと友だちだよ」


 なんだか言ってて恥ずかしくなってきた。


「それは変わらないよ」

「うん。ぼくもおなじ気持ちさ」


 アンデルセンの『人魚姫』は、王子様が修道女に化けていたお姫様と結婚して、人魚姫は人魚に戻ることもなく、自分の胸を刺して海の泡となり消えてしまった。


 このはかなくもせつない作品に触れて、少なからず世の中の理不尽を感じない人はいないだろう。


 それとも、王子のために人魚をやめた人魚姫をおろかだと思う人もいるのだろうか?


 この世界観を平等に見ることはなかなかむずかしいだろう。


 思考は人の数だけあるからおもしろい。本当にそう思う。


 『人魚姫』を感傷的な物語だとしたら、なぜ子供向けの童話にしたのだろう?


 それはまったくわからないけれど。


 楽屋で五人でオレンジジュースで乾杯してると、凪のお父さんたちが姿をあらわす。


「父さん、それに母さんまで。本当に来てもらえるなんて思ってなかったよ」

「凪と約束したからな。それでどうだ? 気分の方は」

「楽勝、と言いたいところだけど。まだほんの少しだけ引きずってる。会った回数は数えきるくらいなのに、どうしてかな?」


 わたしは凪の手を握る。

 

「だから。素直に泣けばいいのに」

「泣かないよ、ぼくは。それより九月公演どうしよう!?」


 もう九月公演のことか。毎回のことながら、演出をすべて凪にまかせっきりなのは気が引ける。


「わたしに手伝えることある?」

「あるよ。完ぺきで不完全な芝居をしてもらうことさ」


 それはまた哲学的な要求ですこと。

 

 でもそれで、演出が凪の負担になっているわけじゃないことがはっきりした。


 わたしたち以外の三人は、お菓子を口いっぱいに頬張って大笑いをしている。


 あと一年とちょっとで、大学生になる。来年はおそらく、受験勉強にかかりきりになるだろう。


 だから、劇場部として演劇ができるのはあとたったの七回しか残ってない。


 をたしたちは生きてゆく。尊すぎる毎日を、毎秒を恐れることなく進んでゆく。


 もしかしたら過酷な運命が待っているとしても。それでもわたしたちは先に進むしかないんだ。


     つづく



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