5ー3 『人魚姫のなみだ』前編
みなさま、本日はようこそ八月公演にお越しくださいまして、まことにありがとうございます。劇場部部長の甲斐野 いち花です。
八月公演は『人魚姫のなみだ』という題名で、アンデルセン作『人魚姫』を大胆にアレンジしております。
至らぬ点は多々あるかと思いますが、最後までどうかお楽しみください。
〘開演ブザーの音〙
✿出演者
人魚姫……甲斐野 いち花
魔女および……音澤 陽稀
王子……椋木 凪
王子の兄……春夏冬 蓮
〘船が難破して、王子が海面に浮き上がる。人魚姫、王子に一目ぼれしてしまう〙
人魚姫「大変。このままだと王子様が死んでしまうかもしれないわ」
〘人魚姫、王子を岸まで運ぶ〙
人魚姫「よいしょっと。これで誰かが見つけてくれるわよね。それにしても素敵なお方。もし、この方が人形だったらわたしの旦那様になってもらえるのに」
乳母「姫様、いつまでも人間に関わってはいけませんと、あれほど王様から言われているではありませんか。さぁ、はやく水中に戻りますよ」
人魚姫「わかってるわよ、ばあや。ああ、どうしてもこの気持ちを打ち明けたい。さようなら、王子様。どうかいい人に見つけてもらえますように」
〘王子、目を覚ます〙
王子「海へ人が? では彼女がぼくをたすけてくれたのか? なんとうつくしいのだろう。また会えるだろうか?」
〘王子気絶する直前に修道女あらわる〙
修道女「大変。早く人を呼ばなくちゃ」
王子「あなたは、誰?」
修道女「修道士様、大変ですっ」
〘王子気絶。修道士たちによって修道院に運ばれる〙
人魚姫「ああ、よかった。ちゃんとたすけてもらえたのね。……でも、わたしの気持ちはもう止まらないの」
〘人魚姫、乳母に連れられて魔女に会いに行く〙
人魚姫「魔女様、どうかお願いがあります。わたし、王子様のことを好きになってしまったのです」
魔女「人魚が? 人間を好きになったって? そう。それは不幸の始まりだわね」
人魚姫「意地悪言わないでください。わたし、どうしても王子様と結ばれたいのです。どうすれば人間のような足を手に入れることができますか?」
魔女「ほう? 人間のような足が欲しいと? それには対価を払ってもらうけどいいかい?」
人魚姫「それはどんな対価ですか?」
魔女「おまえの美しい声をわしにくれ。そうすれば人間の足をやる。だがもし、王子の心を射止められなかった場合は、その手で王子を殺すんだ。できなければおまえは海の泡となり消えてしまう。それでいいか?」
人魚姫「とても怖い。声をなくすだなんて。でも、王子様にもう一度会いたい。人魚ではなく人間として会ってみたい。その結果、わたしが選ばれなかったとしてもかまわない。……承知しました。あなたに声を差し上げます」
魔女「いい子だね。声を出せない苦痛を得と味わうがいい。それっ」
〘魔女の掛け声で人魚姫の声が出なくなってしまう〙
魔女「(人魚姫の声で)さぁ、おまえには人間の足をくれてやる。どこへなり行くといいよ」
〘人魚姫、息がつづかなくなり、水面まで浮き上がる〙
中編へつづく




