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5ー2 『マーメイド・プリンセス』

 凪の生みの親のお通夜へ連れ立って行ったわたしだけど、心配するくらい気丈に振る舞っていたから、心がとても痛かった。


 こんな時なんだから、泣いてもいいのに。凪はできるだけ弱さを表に出さないようになっていた。


 ただ、なぜか靴下は左右で色が違っていたから、さすがの凪でも動転していたのがわかった。

 

「わざわざ来てくれてありがとう、いち花ちゃん」

「いいえ。かまいません。明日も来ますから」


 せっかくの夏休みにのに、ごめんねとおじさんは力なく笑っていた。


 凪を産んでくれたお母さんは、孤独な人だったのだということが少しだけわかった。


 なぜならお通夜にいるのはわたしと凪、そして凪の育てのお母さん、そしておじさんだけだったから。


「本当に、気にしないでください。っていうより、わたしの方こそ部外者なのにすみません」


 いいんだよ、とおじさんが答えてくれた。


「彼女の悪口は言いたくないんです。凪を産んでくれた人だからね。わたしは彼女のもろさをやさしく包み込むことができなかった。それが今でも悔やみます」

「父さん……」


 凪はきゅっと唇を噛んだ。涙が出るのを必死にこらえている。

 

 泣いてもいいのに。強情なんだから。


「八月公演、父さんたちにも観に来て欲しいな。もちろん、仕事の都合がよければだけど」


 凪はおじさんたちにそう言うと、お通夜の片付けを始めた。


 わたしもそれを手伝う。


「いち花、今日は本当にありがとう。すごく、心強かった」

「いいんだよ、凪。こちらこそありがとう。そんな風に言ってくれて」


 ただの友だちなのか、それ以上なのかはわからないけれど。


 幼馴染み三人の中でも凪がダントツで特別なことが今わかった。


 わたし、凪の演出だから役者でいられるんだよ。凪の演出じゃなかったら、役者なんて恥ずかしくてできなかったもの。


「さて。父さんたちにはああ言ったけど。八月公演は海にまつわる物語をピックアップしたんだ。それもとびきりのバッドエンドなやつ。そして誰でも知っている物語。それを、ハッピーエンドに書き換えてみせるよ」

「うん、たのしみに待ってる」


 そうとしか答えられない。わたしは、凪の特別なのかな?


 そんな風に思ってもらえてるのかな?


     つづく

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