4ー1 『オーバーザレインボーは誰のため?』
梅雨の季節は憂鬱だけれど、もうすぐ梅雨があけるかもしれないって思うと、なにかが始まりそうでどきどきする。
陽稀との映画は思っていたよりずっと楽しかった。あいつ、お昼代まで出してくれたから、これまでの陽稀と少しだけ違って見えた。
なんていうか、知らない人っぽかったっていうより、前より大人に感じて意識しちゃった。
でも、陽稀はわたしのことなんて女性として見てくれたわけじゃないよね?
だからこれでいい。
「いち花、英語の辞書貸して!!」
気づけば隣の教室から蓮が窓に身を乗り出している。
「めずらしいね、忘れたの?」
「うん。今めっちゃ英語の勉強しててさ。紙の辞書家で使ってるから、忘れちゃってた」
劇場部のマスコット兼万能選手である蓮だけど、苦手な教科はムキになって克服しようとする意外な一面がある。
「なるほど? もしかして留学生狙い?」
可愛い系な蓮だけど、その可愛らしいルックスと男らしい一面からギャップ萌えで結構モテる。
苦手教科とおなじで、女性に関しても落とせない相手は落としにかかる。そんな肉食系な一面もまた人気の秘密でもある。
「まっさか。将来のことを考えての勉強だよ。そのうち留学とかもしたいと思ってるんだ」
「留学?」
そのワードがやけに重々しくのしかかってくる。
やんちゃ坊主の印象が強い蓮だけど、自分の将来をしっかりと考えている。
わたしの知らない蓮の一面に驚き、また不安に襲われた。
もし、蓮が留学したら劇場部はどうなるのか。そしてその時、わたしは笑顔で蓮を送り出せるのだろうか。
「う〜。さみしいよ、蓮〜」
愚直にも、そんな言葉を吐いてしまう。
「ちょっといち花。弱気にならないでよ。別に、今すぐ留学するわけじゃないんだからさ」
だけど。わたしたちは確実に昨日より大人になっていて、すでに別々の道を歩むべきカウントダウンは始まっているのだ。
わたしの知らない蓮の一面に涙が出てしまったけれど、それもまたしかたのないこと。今は少しだけ我慢した方がいいのかもしれない。
「そうだよね。ごめん。弱気になった」
「そんないち花のために、ぼくから凪に『オズの魔法使い』をプレゼンしておいたよ。雨上がりの虹のような脚本を期待しちゃうよね」
「うん。でも、誰がドロシーを演るの?」
「う〜む?」
蓮はひとつ息を吐くと。
「でもカカシは絶対に陽稀だよね」
「あ、わかるぅ〜」
のっぽだし、無心だし。
「じゃあライオンは凪?」
「ぼくはトトを演ろうかな?」
「それいいっ。じゃあわたしがドロシーになっちゃうけどいいの?」
最近ヒロインばっかりで、女役も華麗にこなす蓮に悪いと思っている。
「いや。ドロシーはどう考えてもいち花でしょう?」
そう言って、いたずらっぽく笑った蓮が、本当の弟だったらよかったのにな、なんて想像してしまうのだった。
つづく




