第3話 美処女になって初めての来訪者
どうにかシャワーを浴び終えた俺だが、これから自分を取り巻く環境がガラリと変わることを含め、色々考えすぎてしまい、もう頭がパンク寸前だ。
俺が生まれてから30歳になるまで、何も考えることも恐れることもなかった事が、降って湧いたように出てきたのだ。
まず、女性の身体になってしまった事で、俺一人で外出する際には、常に周囲には気を付けなければならない。
実際に病院に行って、この身体について調べてもらったわけではないが、完全な女性なのだとしたら、乱暴されれば妊娠させられる危険性がある。
それに関連するのだが、女性の身体にだけ月に一回……周期的に訪れる月一のアレの件も、ちゃんと頭に置いておかないといけない。事前に用品を準備しておいたり、周期を記録したり確認したりする必要があるらしいが、俺には学校で習う程度の知識しか持ち合わせてはいないのだ。
──ピンッ……ポーンッ……!!
「あっ……!!えっ!?まだ、全然っ……片付けられてないじゃーんっ!!」
──ピンッ……ポーンッ……!!
自分の身体のことで俺の頭の中は精一杯で、徹さんからのインスカのチャットだけは、電話を掛けられまいと、何とか反応出来ていたくらいだった。
部屋の壁に設置されているインターホンの子機から、二回目の呼出音が鳴り終わるのが聞こえた。
でも、まだ俺は部屋の床に散らかる、成人向けコミックや、丸められたティッシュなどを片付けているところだった。
──ピンッ……
「はいっ……はぁーいっ!!よいっ……しょっ!!」
──ピッ……!!ピッ……!!
いつもの俺なら、まずインターホンの画面を確認した上で、二回目の呼出音が鳴り終わるまでには、玄関ドアの鍵を開け終わっている頃だ。
なので、これ以上待たせてしまうと、徹さんから電話が掛かってくる可能性があった。
だから、俺は部屋の片付けは諦めて立ち上がると、インターホンの子機の前まで行くと、画面の下にある通話ボタンを二度続けて押した。
すると、三回目の呼出音が途中で鳴り止んだのだが、電話で例えれば出た瞬間切るイメージに近いだろうか?まぁ、知り合いが訪ねて来た時は、俺はいつもそうやっていたので、徹さんにも出る意思が伝わっているとは嬉しいのだが。
──カチャッ……カチャッ……
──ガチンッ……
もう、この後何が起きるかなんて考えている余裕もなく、俺は玄関ドアの鍵をテンポよく二箇所開けると、起きているU字型のドアガードを倒した。
あとは、玄関ドアの取っ手を押して開ければいいだけなのだが、俺はなかなか次の一歩を踏み出せずにいる。
──ガッチャッ……
躊躇している俺を尻目にして、急に玄関ドアが開いたのだ。
「おーい?玉川くーん!!大丈夫かー?」
「パパ?!もーっ!!勝手に開けちゃダメでしょー?」
開きかけの玄関ドアの外側から、徹さんと18歳になる娘さんの由美香さんの声が聞こえてきた。
こんな状況にまでなって、ここで俺が躊躇っていても時間の問題なのだが、二人がどんな反応をするのかが怖くて、声が出せなかった。
──ググッ……
「えっ……あっ、僕は巳琴さんの同僚で、鈴木と申します。本日はご在宅でしょうか?」
もうどうにでもなれと、開きかけになっている玄関ドアの取っ手を、俺は外側へと向かって押し込んだ。
すると、玄関の外側で立っていた徹さんと、俺は目が合ってしまったのだが、その際予想外の反応を見せたのだ。
果たして徹さんの目には、俺のことはどう写っているのだろうか。
「もーっ!!嫌だなぁー?徹さんっ!!俺っすよ!!」
「へっ?!い……今、『俺っすよ』って、言いました……?」
「あっ……はいっ!!とりあえず……徹さんも由美香さんも、部屋の中入っちゃって下さーいっ!!」
「え、えっと……。一体、どういうことなんだ……?」
実は、俺が一人っ子だという事を、徹さんにだけは話したことがあった。
だから、自分の目の前に居る女性が、俺の家族以外の誰かだとは思っていたはずだ。
そんな中で、その見知らぬ女性に自分たちの名前を呼ばれた上、俺みたいな喋り方で話しかけられれば、流石の徹さんでも混乱するのも無理はない。
「パパ……?いいから!!言われた通り……入ろう?」
「あ……あぁ。」
「はーいっ!!由美香さん、どうぞどうぞー?」
玄関の上がり端に立っていた俺は、徹さんと由美香さんが上がりやすいように、少し後ろへと下がりながら、手のひらを上に向けて入るよう促した。
─_─_─_─_
「あの……。失礼ですが、貴女は……?」
「もぉーっ!!俺ですよぉーっ!!徹さんの飲み友達の玉川巳琴ですっ!!」
色々と散らかる俺の部屋の居間へと、申し訳ないと思いながらも、上がってもらったところで徹さんから声を掛けられた。
ここで取り繕っても何も意味がないので、俺は普段通りの自然な感じで返した。
「だ、だって……。その姿……。どっからどう見ても、女性にしか見えないんだが……?」
「『30歳まで童貞なら、魔法使いになれる』って都市伝説あったじゃないですかぁ?実は、あれって……『30歳まで童貞なら、女性になれる』の間違いだったみたいですっ!!」
もう、俺の身体に起きた、ありのままのことを話すしかないと覚悟を決めて、先日も徹さんに語っていた都市伝説の件も交え、言い切った。
例えこれで拒絶されたとしても、俺には後悔はない。
「あのぉ……?本当に……貴女が巳琴さんかどうか、質問させて頂いてもいいですかぁ?」
「はいっ!!由美香さん?何質問してもらっても、全然っ……大丈夫っすよー?」
「あぁ……。疑ってしまって、本当にごめんなさいっ!!その喋り方、まるっきり巳琴さんですもんねっ?」
「おぉ……?!良かったぁー!!俺だって、由美香さんは分かって貰えたんですね?」
初めは怪訝そうな表情で、俺を睨みつけるような目つきで見てきた由美香さんだったが、言葉を交わしていくたびに、変わっていくのが分かった。
でも、由美香さんに俺だってことを分かって貰えたことは、純粋に嬉しかった。
「ゆ、由美香!?一体、何を言ってるんだ?!」
「パパ!!ちょっと黙ってて!!あのぉ……巳琴さん?少し……身体の方、私に見せてもらっても……良いですか?ちょっとでも、巳琴さんのお力になりたいので!!」
未だに、徹さんは自分の目の前にいる女性が、俺だと認識出来ずにいるようで、娘さんの由美香さんから、少しキツめの一言を浴びせられる始末だ。
そういえば、今日の由美香さんは、いつもよりもおめかししているのが見て分かる。
まさかとは思うのだが、もしもそうだとすれば、俺は本当に済まないことを、由美香さんにしてしまったという気になる。
「おいっ!!由美香は本当に何を言ってるんだ?!」
「パパは、目の前に居る女性が、巳琴さんだって……本当に分からないの?!」
「ああ!!悪いが、僕には……綺麗な女性にしか見えないんだ……。」
「なら……もう、パパは黙ってて!!じゃあ……巳琴さん?ちょっと、脱衣所いきましょっか?」
「あっ……!?はいっ……!!」
──ガッチャッ……!!
立て続けに、由美香さんからガツンと言われてしまった徹さんは、大人しくなってしまった。
由美香さんはその勢いのまま、居間から脱衣所へと繋がるドアの取っ手に手をかけると、開けてしまった。
「絶対、パパは入って来ちゃダメだよっ!!巳琴さん、早く早くーっ?」
「徹さん、申し訳ないっす!!しばし、お待ち下さいっす!!」
気付けば由美香さんに手を握られた俺は、脱衣所の中へと入りかけているところだった。




