表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

第1話 社畜の童貞が美処女になった日

 「お疲れー!!」

 「お疲れ様ーっす!!」


 ──カチンッ……!!


 ここは会社近くにある、深夜営業の居酒屋。因みに今日もまだ平日だ。厳密に言えば、昨日も今日も平日だ。


 ──ゴクッゴクッゴクッゴクッ……

 ──ゴトッ……!!


 「プハァァッ!!生き返るなー!!玉川(たまかわ)くーん?」


 ──ゴクッ……

 ──コトッ……


 「そうっすね!!あー……(とおる)さん、本当すみません!!こんな時間なのに、付き合ってもらっちゃって……。」

 「だってさー?明後日……いや、もう明日か?誕生日だったよねー?前日くらい、祝ってやらないとさー?」


 テーブル席で俺の正面に座り、ビールの中ジョッキを一気に煽ったのは、鈴木(すずき)徹さんという42歳のバツイチで、隣の部署の主任さんだ。

 経営企画室という経理から広報などを行う部署で、俺が新入社員で配属されてから、異動なく所属する販売促進部とは、華やかさが違う。


 「あー!?確かに……そうっすね!!忘れてたっすよー!!」

 「何年前だっけか?『30歳まで童貞だと、魔法使いになれるみたいっすよー?』って、玉川くん言い出したんだよなー?」


 徹さんに言われて思い出したが、確かに『30歳まで童貞だと、魔法使いになれる』という都市伝説を俺は信じている。

 現在の部署に配属されてからというもの、俺は毎日のように日付が変わるまで忙殺され続ける事、はや8年。

 そんな社畜な俺、玉川巳琴(みこと)は……平日はプライベートな時間を取れず、彼女など作る余裕もなかった。だから、今夜みたいに徹さんと居酒屋へ飲みに来た際、魔法使いになるべく……30歳まで童貞を貫くと決めたのだ。


 「遂に……!!明日で、30歳になるんすね!!俺も……いよいよ魔法使いっすね!!」

 「もし、玉川くんが魔法使いになれなかったら、僕の娘と付き合えばいい!!由美香(ゆみか)も玉川くんのことは、気になってるみたいしなー?」

 「由美香さんがっすかー?!あり得ないっすよー!!あんな美少女が、俺のことなんて……鼻にもかけないっすよー!!」


 徹さんはバツイチだが、今年で高校卒業予定の由美香さんという娘さんと、同居している。まぁ、娘さんの親権があるということは、徹さん起因での離婚では無さそうだが、そこまでは聞けてはいない。

 休日や金曜から土曜への日跨ぎした際、同じく徹さんも残業している時は、帰りにご自宅へと招かれる事がよくある。

 俺が親元を離れて一人暮らしをしているから、そこを徹さんは気にかけてくれているのかもしれない。


 「そんなことはないと思うぞー?玉川くんが家に来た時の由美香のテンションときたら、まるで別人みたいからなー?」

 「仮に、付き合うとしてっすよ?俺と由美香さんじゃ、一回りも違うんすよー?絶対、犯罪っすよー!!」

 「うーん……そう言われてみると、でもなー?」


 まぁ、部署が違うためかもしれないが、二人ともお酒はそこそこ嗜むこともあり、歳も一回りも違うが、いつの間にやら良い飲み仲間となっていた。


 ──カチッ……

 ──ピンッ……!!ポーンッ……!!


 「徹さん、飲み足りないっすよねー?」

 「おーい!!今、ポチッたのかー!?まだ、飲み切ってないぞー?」


 ──ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……


 「プハァァァァッ……!!ハッピーバースデーイブ……俺。」


 まずは、徹さんの娘さんと付き合うどうこうではなく、俺は『30歳まで童貞だと、魔法使いになれる』ことを、体現しなくてはならないのだ。


 それと、これは毎度のことで、俺は話が少し面倒な展開になると、居酒屋のテーブルにある呼び出しボタンを押して、リセットする流れになっていた。


─_─_─_─_


 ──カチャカチャカチャカチャ……

 ──カチッ……カチッ……


 「ふぅ……。」


 今夜も俺は、会社の自席でディスプレイの前に向かって、キーボードを叩きながら、来月の販促の企画提案書を仕上げていた。ふとディスプレイ越しに周囲を見渡しても、俺以外の姿は見受けられない。

 普段ならここに徹さんが居るのだが、珍しく今日は娘さんとの約束があったようで、定時で仕事を切り上げて帰って行った。


 そもそも、ここのフロアに入っているのは、社長室に秘書室、それに人事部、総務部と続き、あとは経営企画室と販売促進部だ。

 販売促進部だけ毛色が違う気もするが、それぞれの部署との連携が必要なため、フロアの移動が無くて良いようにという忖度があるようだ。


 因みに、この時間は俺しか販売促進部は居ないように見えるのだが、実は結構大所帯ではある。

 TVやラジオなどのメディア担当、チラシやWEBページなどの制作担当、そして販促などの企画提案担当、イベントなどの運営担当がいる。

 実はここのフロアに居ないだけで、それぞれの場所で遅くまで皆頑張っている筈だ。

 だから、自席で仕事が出来るのは、俺はある意味幸せな方かもしれない……という社畜的な考えは本当に良くない。


 「おっ!?魔法使いにクラスチェンジするまで、カウントダウンじゃん!!」


 気付けば、自席のディスプレイに表示されている時計の時刻は、俺の誕生日を迎えるまであと10秒程に迫っていた。ようやく俺は、念願だった魔法使いになれる日を迎えることが出来るのだ。


 「おおっ!!ごおっ!!よんっ!!さんっ!!にぃ!!いちっ!!きたああああっ!!」


 ディスプレイに表示されていた日付が、俺の誕生日へと変わった瞬間だった。


 「あ……れ……?」


 ──ドンッ……!!ズサッ……!!


 貧血を起こした時みたいに、目の前が真っ黒になった俺は、とりあえず安静にしようと自席の机の上に突っ伏した直後、意識が遠のくのを感じた。


─_─_─_─_


 ──ゴゴゴゴッ……!!ゴゴゴゴッ……!!


 スマホが激しく振動する音で、俺は目を覚ます事が出来た。一体、俺はどれくらいの時間、机の上で突っ伏したまま意識を失っていたのだろうか。

 そう思いながらも、俺は机の上で振動するスマホを手に取ると、おもむろに画面を見た。

 すると、朝風呂に入るために3時にセットしてある、振動だけのアラームが鳴ったようだ。


 「さっ、さんじぃ?!」


 起きたての為、俺の喉はまだ寝ているのか、急に声を発したら裏返ってしまったようだ。

 それにしても、魔法使いになった感じは全くせず、逆に物凄い怠さに襲われている。しかも、スマホを持った手に凄い違和感を覚えた俺は、鏡のあるトイレへと向かうため、席を立ち上がった。

すると、履いていたズボンや靴が、やけにブカブカとしている感じがして、物凄く不安に駆られた俺は急ぎ足でトイレへと駆け込んだ。


 ──ピッ……


 真っ暗なトイレの照明を点けようと、俺はいつも通りスイッチを押すと、洗面台のある方へと進んだ。

 パッとトイレの中が明るくなると、洗面台の壁面に設置された大きな鏡に、俺が魔法使いになった姿が映し出される筈だった。


 「えっ……!?はああああああああっ……?!」


 しかし、鏡に映った俺の姿は、あまりにも衝撃的な光景過ぎて、思わず大声をあげてしまった。


 ──ポフッポフッ……!!ムニイィィッ……!!


 先程から、聞いたこともない声が、自分の喉から発せられていることに、驚いている暇も俺には与えてはくれないようだ。


 「ないいいいっ……!!こ……こっちは?!あるのかいっ……!!ってことは……。」


 男の象徴ともいうべきモノが、俺の股の間から消えているようで、叩いても痛みを感じなかった。まさかと思い、俺は胸の辺りに手を当てると、マシュマロかと思うくらいの柔らかな何かがあった。


 ──パチンッ……!!ジイイイイッ……!!

 ──シュッ……!!


 「うわあっ……!?い、意外と……グロテスクなんだな……。」


 俺が置かれた現実を目の当たりにして、それまで抱いていた色んな幻想は、一瞬にして吹き飛んでいった。

 それに、『30歳まで童貞だと、魔法使いになれる』という都市伝説があるが、もう俺は絶対信じない。だって、魔法使いになるどころか、自分で言うのもアレなのだが……俺の原型を留めていない程、相当な美女になってしまったのだから。


 「そっか……!!俺、童貞だったから……処女って事だよな?」


 今日は、社畜の童貞な俺にとって節目と言える、30歳の誕生日で、くどいようだが魔法使いになる筈だった。

 だが、実際には俺の身体は……どういう原理なのかは知らないが、処女な美女……いわゆる美処女(びしょじょ)になってしまっていたのだ。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ