荷物持ちと少女。異常なし。通ってよし。
検問中、奇妙な2人組みが現れた。
十代後半くらいの男女で、男の方は山程の荷物を背負っているだけでなく女物のバッグさえ器用に腕にぶら下げている。
反対に女の方はそのバッグ一つ持っていない。
文字通り手ぶらだ。
「どちらに行かれるのですか」
職務のため取締官は問う。
背後の部下達はいつでも剣を抜けるように控えさせているが、男の方はこの様子じゃ機敏に動くなんて不可能だろうし、女の方は小柄で手の状態を見るに武器を持ったことはないだろう。
針仕事のせいか指は包帯を巻いていたが。
「故郷へ戻るのです」
「この時期にですか?」
「この時期だからこそです」
先日に起きた内乱。
きな臭くなってきたこの場所から逃げようとするものは多い。
この二人もそんなところだろう。
取締官は人相書きを取り出した。
上から必ず捕らえろと呼ばれている者は多いが、その中には女もいる。
しかし、じろじろと舐めるように見回したが特徴は一致しない。
「おい」
荷物まみれの男が言った。
「失礼だろう。女の顔をそんなに見るのは」
「は? なんだ? その口の利き方は……」
「ちょっ! なんてことを……!! 申し訳ありません!!」
女は直ちに謝罪をした。
「申し訳ありません! この者は仕事というものを理解していないのです! あなた達がいるからこそ人々は安心して暮らせるというのに……!」
何度も何度も頭を下げる女を見て取締官は舌打ちをする。
捕らえなければならないのは傲慢な貴族ばかり。
こんなにもあっさりと頭を下げるようなプライドのない女なんていない。
「とっとと行け」
「はっ、はい!」
女は何度も頭を下げて男を引き連れて門を通った。
その背後で部下は次のように記す。
『荷物持ちと少女。異常なし』
***
門を通り過ぎ、それが彼方へと消えた途端。
少女は大きなため息をついて男へと言った。
「何を考えているんですか!? あんなところで喧嘩を売るなんて……!」
「あんまりにも失礼な態度だったからな。職務もまともにこなせていないし」
「私たちのことを疑っていましたよ!?」
「疑ってなんかないさ。荷物持ちは見なくて大丈夫なんてバカな発想をして。これじゃ、この国が悪くなるのもよく分かる」
少女はため息をつく。
彼の言うことも尤もだ。
荷物を持たせているというだけで召使いとして切り捨てて警戒さえしないなんて……流石にずさんすぎる。
だから、こんな子供騙しの手に引っかかるのだ。
「まぁ、とりあえず無事に抜けられてよかったと思いましょうか……」
「そうだな」
「それじゃ、いい加減。その荷物を持たせてください。主にこんなことさせる召使いなんて聞いたことありませんから」
少女はそう言ったが男は無視して歩き続ける。
「ちょっと!? 聞いてます!?」
「女に荷物を持たせる男ってのもありえないだろ」
「いえ、ですからその前に主に荷物を持たせる召使いがそもそも……」
「もう貴族じゃない。だからそれは通用しない」
「いやいやいや……」
「俺はこれから君と一緒に平民として生きるんだ」
一方的な宣言をして歩く男……自分の主……いや、同い年の少年を見て少女はため息をつく。
「平民なら容赦なく女にも荷物持たせますけどね。女を楽させるてやるなんて考えを持つ前に、そもそも手が足りないので」
「俺は元貴族だ。だから君に持たせない」
「あー、もうまったく……」
生涯に渡って聞かれることになる軽い口論。
その一回目をしながら、過去を捨てた二人は未来へ向かって歩き続けた。




