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ルインシールサーガ 一章 竜と刀とブルーベリー  作者: 宮下しのぶ
第二章 不良娘と特待生

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不良娘と特待生 1

 

 カーリャ=レベリオンはレベリオン家の三女である。

 レベリオン家は、代々セインブルグ王家に仕える騎士の家系あり、爵位を賜っている忠臣の貴族である。

 その歴史は古く、一説にはセインブルグ王国創設期より続いているとも噂されている。

 セインブルグ王国の創立はおおよそ三百年ほど前とされ、そうなるとレベリオン家も三百年以上続く伝統的な家柄であるはずだが、実際に賜っている爵位はトニュオクシブ、要は子爵であり、その古参な家柄とは相対して、貴族社会での立場は低い。

 三百年の歴史の中で順調に腐敗した貴族社会の中で、忠義と確執、義侠心等の埃を被った信条を旨としているレベリオン家は、その堅物な態度から冷遇されることが多い。

 柔軟な社交性を欠き、悪戯に正義と王道を貫いた結果、レベリオン家は長きに亘ってその立場を向上、改善することなく、栄光と栄華の道からは完全に反ることになった。

 代々、騎士としての正道の道徳を教育されたレベリオン家の当主達は自己満足な正義を貫いて満足にその生涯を終えたようだが、結局のところ、周りに寄り添う者にはたまったものではないというのが、歴史の識者からは真実であったように思えるのではないだろうか。

 そんなレベリオン家の三女であるカーリャ=レベリオンもうだつの上がらない貧乏騎士であり、貧乏貴族にありがちな、とりあえず子供をたくさん産んだのはいいものの、全員を養う余裕や余力はまるでないという状況なので、女だてらに齢十六にしてセインブルグ王立軍に縁故の入団を果たした。

 まず、女性という立場なので正騎士ではなく従騎士という扱いだし、配属先も第七師団第七小隊所属という験が良いのか悪いのか分からない状況である。

 うだつの上がらない、上司に進言することもできなければ無能な部下の一人もいない最下級の底辺騎士なカーリャは、今日も今日とて、国家の勅命に逆らうこともできず、このアークガイア第九区であるクリュール区に訪れていた。

 クリュール区がどのような区画化といえば、セインブルグ王都アークガアイアの二周目に位置すると説明すれば良い。

 セインブルグは六翼三層の十八区画で成り立っている。勿論、元々は王城を中心とした六区の城塞都市であったのだが、セインブルグ王国の発展の中で王都も増築と拡張を繰り返し、三百年の歴史の中で人口三百万を内包する巨大都市へと変貌した。

 セインブルグは王城に近ければ地価が高く、逆に外周に面する程治安が悪くなる傾向にある。もちろん、大河や街道との兼ね合いの関係でこれが一概に型にはまった傾向とは言い難いのだが、基本的には王城に近い一周目に貴族や豪商等が住み、外周に近い区画の中にはスラム街と遜色ないような場所もある。

 クリュール区は王城から北西に位置し、治安としては比較的悪くはない。主に中堅層の平民が住み、区画整備もきちんとしている。

 特色としては飲食店が多いことである。

 初代の区長が食通の貴族で、そこから派生して飲食店が立ち並びやすい風土になった。価格も割と中堅層向けで、外区画からわざわざ食事の為に訪れる者も多い。

 他意はないが、間違っても魔道を志す魔術師が居を構えて、アミュレットとかポーションを売るような土地柄ではなかった。


 〇 〇 〇


 空が青い。

 青い空である。

 天気が良い。

 忌々しい女王一派のお使いにはとても良い陽気だ。

 円卓議会だっけ?なんじゃそりゃ。

 そんな悪態を内心で吐きながら、けれども文句をいう相手も無く、カーリャ=レベリオンはクリュール区を歩いていた。

 蒼海の髪。

 本日の雲一つない天候にはとても映える。

 軽くうっすらと、銀が彩る蒼い髪を腰のあたりで軽く縛っている。

 雑であるところを見ると、女性の命に頓着がないのだろう。

 服装は珍しく和装の着物に似た出で立ちだが、下はハーフパンツである。

 見栄えや取り合わせよりも動き方を重視していると伺える。

 和装は海外のシフォンという国家で流行っており、珍しい出で立ちではあるが、文化としてはセインブルグにも伝わっていないわけではなく、偶に物好きな東方かぶりが着用していたりする。

 そしてカーリャも、その物好きな東方かぶれだったりする。

 もちろん、物好きな東洋かぶれは武装もいかにもだった。

 使い古された年代物の剣が一本。

 東方で生産されている刀、という種類の剣である。

 扱いが難しく、横からの衝撃に弱く、おまけに鎧で武装されたらなんの役にも立たない非常に実用性の薄い剣の一種である。

 だから、これも文化としては伝わっているのだが、今一つ量産体制され辛い、いわゆる人気のない色物の武器と評されていた。

 もちろん、王立騎士団で採用されているのは一般的な製鉄された西洋剣なので、腰に一本携える玩具はカーリャの私物であった。

 一応、今回も軍務ではあるのだが、今回のような特務の場合は、服装や帯刀に関しては割と黙認してくれる。

 あくまで黙認だが。

 カーリャは、安物の獣皮紙に書かれた地図を見た。

 直属の上官であるラファール小隊長から、「お前みたいな暇でサボリ癖のある不良軍人にちょうど良い任務がある。お前は威風堂々とサボれるし、俺も憎たらしいお前の顔を見ることがない、おまけに女王陛下からの覚えも良くなるという良い事尽くしの特務だ。出来る限り、長引かせて戻ってこないように。出来れば二度と戻ってこないと最高だ。お前は階級特進するし、レベリオン家に遺族年金も入るからな。前向きに検討してくれると俺としてはとてもありがたい」と軽くネチられながら渡された。

 遺族年金を払わされるのはお前の実家だと思いつつも、カーリャは周りを見回した。

 取り立てて変わったところはない。

 ごく普通の街並みである。

 石畳。

 組積造の民家が立ち並ぶ。

 大通りではないが、裏道というほど道幅は狭くない。

 実際に本道とも呼べる大通りからは一本裏に逸れており、大通りの方は屋台や商店が立ち並んでいるが、こちらの方は民家が多いからか横を通りすがるのは女性や子供が多いようにカーリャは感じられた。

 殺意がわくほど臭く忌々しい中年管理職の小隊長から勅命?だかなんだか良くわからないが、与えられた任務は二つだった。

 一つは、近隣の森にど~らごんが現れたから、偵察してこいという話である。

 遠回しに死ねと言っているのだろうか。

 特務の経費として与えらえた額があのケチな上官の割には色がついていた事から、何らかの他意や思惑があるように勘繰ってしまうのがカーリャであった。

 大体こういうのは斥候部隊の仕事なのではないだろうか。

 うちにもあんだろ。そういうなんか、斥候とか偵察的な仕事をする部署が。なんで私が?

 答えは嫌がらせである。論破。

 まあ、十六歳でドラゴンスレイヤーとして名をはせるのも悪くはない。討伐のあとは自伝でも出版して、師事的な役職に収まって安全なところで隠遁も悪くはない。

 だから偵察って言ってんだろという突っ込みがあるのかどうかは知らないが、カーリャはドラゴンバスターをかました後の英雄扱いを夢想して内心でニヤニヤしてた。

 もう一つは、まあ勧誘とでも言えば良いのだろうか。こちらの方は斥候以上に部署違いだろうと感じさせられたが、魔法使いのヘッドハンティングである。

 今、訪れているこのクリュール区に、隣国ベルファンドでも最高位の教育機関として名高いアーシュナイド魔法学院を首席卒業した才媛が住んでいるという情報が流れた。

 アーシュナイド魔法学院はベルファンド王国でも最高学府の一つであり、その卒業生というだけでも雇ってくれる機関は多く、望めば国家公務員も夢ではない。

 その最高学府を首席卒業した人間がなぜか、このセインブルグで隠遁生活を送っているから、それを遊ばせている手はないというのがこの国の上層部の意見であった。

 ただ、前評判倒れだと困るので実力はきちんと見定めたい。

 つまり、実際に優秀な人材かどうかきちんと確認し、高い実力を持ち合わせているのならば、他の機関に奪われる前に囲い込んでしまおうというのが目的である。

 たしか、前年度か、よもや今年度卒だったように聞いているので、隣国が表に出したくない最新の技術と知識を、なんの費用もなく得られるならば、王立魔道機関の高官も両手を挙げて喜ぶことだろう。

 で。

 今回は「ドラゴンバスターする」案件と、「首席ちゃんの実力を見定める」案件が二つ重なったので、どうせならドラゴンバスターに首席ちゃんを連れて行って戦わせて、実力の程を図ろうという素晴らしいアイディアで職務を遂行しようと考えているカーリャであった。

 え、死んだらどうするの?

 大丈夫、人はそう簡単に死なない。昔から言うじゃないか。死ななきゃ安い、と。

 もしかしたら片腕一本ぐらい失うかもしれないだろうか戦いに犠牲はつきものだし、たぶん魔法使いだから片腕失っても研究の支障にはならないだろうとカーリャは思っていた。

 外道である。

 馬鹿なんじゃないのか。

 カーリャは、再び周りを見回す。

 そして、地図に視線を戻す。

 また、見回す。

 また、戻す。

 地図と現在地は照合できた。

 どうやら、道は間違っていないらしい。

 大通りから一本逸れた路地から更に一歩裏道に踏み入れた先の建造物が、かの選良されし魔道の輩が居城。

 けれども、それらしいものは見えない。

 カーリャがまず思い浮かべたのは魔術工房だった。

 どこにも属さず、若くして隠遁している魔術師が求道的に自らの研究を行うことも珍しくない。

 国家や協会等の魔術機関に属する方が研究に対する成果につながるのだろうが、自らの研究を隠匿して成果を独占しようとする人間は多いし、研究職としての側面のある魔術師という人間は総じて偏屈が多い。人と接するのが嫌いで、自分一人でやりたいという人間もいるだろう。

 ましてや首席卒業である。魔道の研究が嫌いで特待扱いされる道理はない。

 そういう状況だと仮定して、自ら工房を造り、引きこもって研究だけに没頭している人間なのかもしれないとカーリャは考えた。

 ただ、魔術工房らしき建造物は見えないし、魔女的な高笑いも響くことは無かった。

 次いで考えたのは、魔道の知識や技術を活かした商売である。

 たとえば、護符や杖等の制作。アーシュナイド魔法学院が何を習熟させる環境かは知らないが、セインブルグでは護符や杖等の魔道具を研究開発する機関は豊富にあるし、それを売買する環境もそろっている。

 どこかの組織に属するよりも、自らが店を興し、主導となって運営したい人間なのかもしれない。首席で卒業となれば向上心が強いのは間違いないのだから。

 他には、魔術の教育機関、いわゆる塾のようなものを運営して、少人数相手に細々とやっているとか、後は考えたくないが本当に魔道に興味を失って魔術を捨てて隠遁したとか。

 そのあたりは考えたらきりがないが、少なくとも魔道に関係するような工房や店舗はカーリャの視界の内には存在しなかった。

「ふむ」

 カーリャはそこでひとりごちて嘆息する。

 しばらく見渡したがやはり見当たらない。

 しかたない。

 カーリャはこの辺りをもう一周することに決めた。


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