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ルインシールサーガ 一章 竜と刀とブルーベリー  作者: 宮下しのぶ
第五章 グラン・ドラグーン

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グラン・ドラグーン 2

 

 軽く腹を膨らませたところで、興味があってカーリャは聞く。

「不思議な食べ物ね。どうやって作っているの?」

 それが地雷だった。

 それが地雷だと、瞬時に認識してしまった。

 連れ立った少女の爛々と輝く瞳に、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの興奮と歓喜に、カーリャはそれが明確な地雷だったと深く理解してしまった。

「しょうがないなあ。聞きたい?そんなに聞きたい?じゃあ、話してあげようかなあ」

 いや、そこまでたいして興味はない。なので、多少お手柔らかにお願いしたいとカーリャは強く願う、が。

「基本的な流れは小麦団子を作るのと同じなんだけどね、出来る限り強い粉を使用するのがコツなの。セインブルグで流通しているファルケ小麦は駄目。あれは灰分高くて栄養価はあるけどタンパク保有率が少なくてグルテン精製が進まないから。どちらかといえば日本国産の小麦に性質が強いんだよね。だからパン文化が生まれなかったんだろうね。やはり用途に向いているのはルクセン小麦。これが一般的な硬質小麦の性質に似ているのよね。でも、ルクセン小麦は風味が弱いから大味になってしまうのよ。だから、個人的なブレントの神采配はルクセン小麦八のファルケ小麦が二。これが私の中の正義。水もユタナ大河の蒸留水をそのまま使うのはNG。ユタナ大河の水質は中々良いんだけどやや軟水よりなんだよね。だから、ガガト山脈近郊を流れるクラン川の蒸留水を積極的に使うようにしているの。あそこも水質が綺麗だし、硬水寄りだから生地が割としまるんだよね。色々試してみたんだけど輸入運搬まで視野を広げるとやはりクラン川の蒸留水が最適解なんだよね。それと、塩もここは岩塩でしょ。岩塩を乱暴に砕いた目の粗い塩を使っているからどうしてもそうすると塩の味だけ引き立って生地本来の味を殺してしまうのよね。精製塩も流通していないし。だからルアンの海水塩をわざわざ取り寄せて使っているんだよね。ミネラルが多いから栄養価も高くなるし。ただ、ルアンの海水塩は若干個性が強くて塩の風味が生地の個性を殺してしまうこともあるから取り扱いが難しいんだよね。そこはまだ、開拓中。砂糖も精製した物がないからメルド地方の糖きびを煮詰めたきび糖を使っているの。甘味はそこまで無いんだけど、中々風味が強いのが特徴。これも癖が強いから使い方は難しいけど、中々特徴的に仕上がっていると思うわ。でもまあ、規格的な精製塩や精製糖が出回っていないからしょうがない部分はあるよね。一番大変だったのは酵母だったかな。この酵母が中々曲者でね、ほら。酵母がガリア大陸で文明として発見されていないのはかなり昔から知っていたから。あの時の驚きったらそりゃあもう。あの時は三歳の頃だったけどラザーニア中の土地をめぐって土とか木とか、植物とか、徹底して酵母を探し回ったものよ。でも既存のサッカロマイセス属のような酵母は中々見つからなくてね。その時はなにげなく使っていた生イーストのすばらしさに深く感涙をしたものよ。結局、色々あった末にラザーニア特産のレーズン種から培養されたものが一番力が強いのがわかってね。ラザムレーズンっていう特産品なんだけど、ドライ系のレーズンも輸出しているからよろしく。大量受注も受け付けているから。話を戻すけどそこから培養しているの。天然酵母だから管理は難しいけどオーバーナイトで一晩ぐらいで生地が上がるから、中々重宝しているのよ。ただ、やっぱり規格的なイースト種が欲しいわよね。それも今、研究中でさ。実はこっそり土とか実とか樹木の端とか皮袋に入れてて、帰ったら研究するつもり。まあ一番のホープはブルーシュかな。上手くいったらゼファーリア天然酵母とか名付けようか。そうなると遂に私も自家製酵母の大家か。中々燃える展開だよね。そうそう酵母の話ね。基本的には天然酵母を管理して使っている形。生地種残して使うやり方でもいいんだけど古い生地種を何時までも残しておくのは私のポリシーに反するからね。品質劣化も心配だし。もちろん酵母もどこぞの老舗な串カツ屋みたいに永遠と付け足しじゃなくて定期的に新しいのを一から作ってるからご安心を。味もそうだけど品質管理も重要だしね。特にこんなファンタジー世界だから清潔清掃はきっちりしないと食中毒の原因になるから。他にも色々拘りはあるけれどもとりあえず軽いさわりとしてこのぐらいにしておこうか。現状の商品は食パンとコッペパン。そう、さっき出したミニコッペね。この二つだけだけどメニューは徐々に増やしていくつもり。いきなり手広くやっても失敗するだけだしね。開店準備で色々と忙しかったし。良質なブトゥルムが流通しているみたいだし、次はクロワッサンとバターロールをメニューに追加するつもりだから楽しみにしていて。ごめんね。ざっくりと説明するだけで、あまり深く説明できなかったけどとりあえずこんな感じでいい?あ、そうそう。製法について説明がまだだったね。まずは」

「いや!もういい!もういいから!もう、終わりにして!お願い!」

「え?これからが面白い所なのに。ブーランジェリースフィールの日々の日課についてとか、調理の拘りポイントとか」

「ごめんなさい。聞いた私が悪かった。お願いだからもう終わりにして」

「え?うん。解った。また聞きたくなったら言ってね。なんでも答えてあげるから」

 二度と聞くかとカーリャは思った。

 というか、昨日の夜、魔術について色々聞いたときは専門分野なのに「カーリャが説明して」といったくせに、このわけのわからねえ小麦風船については語るなと言っているのに必要以上に語りつくす。話が長えよ。どれだけ一人で話してんだよ。

 カーリャはミシューの長回しな長話にうんざりと岩壁に背を預けると、嘆息交じりに言う。

「まったく。本当にそのわけのわからないパンだか、ポンとかを作るのが好きなのね。私は料理とか興味ないからそういう感覚、まったくわからないわ」

「今度、教えてあげるよ。面白いよ。生地をコネコネしていると日々のつまらない事なんて全部忘れられるよ。一緒に過多水のフランス生地朝までいじって手をベトベトにしよう。ゴブリン狩りよりよっぽど楽しいよ」

「だから、言っている事わかんねーって」

 そう言いながら苦笑交じりに肩をすくめる。

「しかし、そこまで好きなのは良く分かったけど、これで実は魔法学院に入学したのもその、ポンとかを焼く為だとかとか言ったら本当に大笑いよね」

「……」

「……」

「……」

「……え?まさか、図星?」

 ミシューは、とっさに目をそらして。

「いや、焼成機材が中々揃わなくて。電気もガスも無いから火を起こすには木や炭を使うしかなくて。でもそれだと釜の温度が中々あがらなかったし、だったら魔術を習って、ファンタジー的に何とかした方が王道かなと思いまして。経費的にもそっちの方が安上がりになりそうだったし」

「それが理由で、アーシュナイド魔法学院に入学したの?それだけが理由で?」

「魔術の勉強を打診したら、過保護な父親がどうせなら上京して名門で専門的に学んだ方が良いんじゃないかという話になって、それで入試を受けたら偶々合格しまして。それで今に至るというわけです」

「あ、そう。非常にあきれた話ね」

「ひどい」

「動機が不純で、しかも想像の斜め上を行っていたわ。更にそれで首席卒業ですって。同期の子たちが浮かばれないわね」

「首席卒業といっても、前も言った通り、私がすごかったんじゃなくて教えてくれた人がすごかっただけなので。あれも別に私の力というわけじゃないから」

「いくら教師が良くても、運や惰性でトップ取れるほど世の中甘くないのよ。経緯はどうあれ、結果を生み出したのは貴方の実力よ。それは誇っていいわ」

「ありがとう」

「ありがとうついでに、話をそろそろ元に戻すわ。いい加減、気になっていたことも洗いざらいにしたいしね」

「え?」

 その言葉を皮切りに、カーリャは体を起こして焚き木を挟み、ミシューと正面から向き合った。


お読みいただき、ありがとうございます。

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