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ルインシールサーガ 一章 竜と刀とブルーベリー  作者: 宮下しのぶ
第三章 ビレッジ・フォレスティア

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ビレッジ・フォレスティア 5

 

 深緑亭はビレッジ・フォレスティアにおいて唯一無二の宿である。

 厳密には有事の際に、酒場や民家等が来客の信頼性を確認した上で宿を提供する、等の例外的状況はもちろん存在するが、専業で宿を提供しているのはこの深緑亭のみであった。

 敷地面積は広く、二階まで存在する。

 ビレッジ・フォレスティアらしい様相の木造建築だが、二人連れの旅客用に設けられた部屋の総数は二十部屋であり、そのすべてが一階層に位置する。

 二人部屋といっても必ず二人で宿泊しなければならないわけではなく、金の無い旅客は数人で利用することもあるが、実際に四人、五人と泊まるには手狭な部屋と言わざろう得ない事実が存在する。

 勿論、宿泊料金は部屋毎である。

 個室の二十部屋以外にも大部屋が四つ用意されており、そこには安物でくだびれた簡易ベッドが一部屋に十台ずつ添え付けられている。

 馬小屋の藁を敷き詰めて眠った方が疲れが取れると思えるほどに粗雑なつくりのベッドが並ぶ大部屋は、個室を貸切るほど金銭を持ち合わせていない旅客者向けである。先ほどのハンター職の者達のように。

 ビレッジ・フォレスティアはその特色上、ゼファーリア大森林の恩恵を得ようとする者達が頻繁に訪れるので、そういった者達の為に旅客用の収容施設は大きく確保しておかなければならない。素性の判らぬ者を村で野宿させてしまうと大抵がろくでもない結果を生むので。

 ただ、大部屋に素性の知れない者が雑居という状況も中々に問題で、貴重品は宿等に保管料を払い保管しておかなければ基本的に一晩で無くなるし、女性が一人で宿泊すると高頻度で貞操を失うことになる。

 二階は貴族や豪商が宿泊する為に設けられている。部屋数は二つだがそのいずれもが大部屋であり、品質の良いベッドに家具一式、簡易な生活ができる程度には整えられた造りである。二階への階段には扉が併設されており、不用心に不審な者が侵入できない構造になっている。

 貴族といっても宿泊するのは子爵等の身分が低い者達で、公爵や侯爵の身分は勿論このような僻地に訪れないし、仮に訪れたとしても、天地がひっくり返っても身分の知れない者達と屋根を同じにさせない。

 豪商も同様であり、資産の大きな商人は村の屋敷を丸々貸切る。先ほどと同様の理由でこのような場所には泊まらない。

 飲食を提供する施設は併設されていない。

 厳密には簡易な食堂と調理施設は設備されているが調理と食材の持ち込みは自分達で行わなければならないし、金を払えば宿の従業員が代行をしてくれるが調理専属ではないので味は保証できない。おまけに代行料は中々に高い。

 大半の旅客は、近隣の酒場兼食堂を利用する。旅客が多い土地柄なので食に携わる店舗も活性の傾向にある。ゼファーリア大森林の資源が豊富なので食事は上手い。肉などは採取して間もない新鮮な物が多いので格別である。

 風呂は併設されていない。

 人が多い土地柄なので公衆浴場が併設されているが基本的には温いし、四刻目の鐘が鳴り始める辺りから五刻目の鐘が鳴り終わる頃合いまでしか営業していない。火を焚き、お湯を沸かすのも資源が馬鹿にならないのである。

 後、土仕事を終えた者達がこぞって入るから基本的に汚い。おまけに混浴である。救いようのかけらもない。

 これでも、インフラが発達している方なのである。悲しい現実である。夢も希望もない。

 まあ、二人がそんな何が浮いているかも判らぬドブ沼の風呂になど入浴するわけがなく。


「カーリャ、身体吹き終わったから、次、水使っていいよ」

 堅いベッドに腰を下ろし、麻のタオルで身体を拭きながら、ミシューはカーリャに声をかけた。

「しかし、タライ一杯で銅貨三枚って、あからさまにぼったくってるよね。宿代は安いのにね」

「まったくね」

 対面のベッドに腰を下ろしたカーリャは適当な相槌で答えた。

 ちなみに、宿代は一部屋、中銀貨一枚である。高めの昼食を三食ほどありつける程度の金額である。昨今の一般的な中流階層の日当が平均して大銀貨一枚から二枚であり、中銀貨換算すると三枚から六枚程度なので別段、特筆して安いわけではないが採算を取るのは多少難しめに感じる値段設定である。

 ちなみに、個室には鍵が備え付けてある。鍵無しの宿も多いのに意外にも設備はしっかりとしている印象があった。

 あれから。

 情報収集を終えた二人は明日、実際に現地であるゼファーリア大森林に侵入して状況を目視で把握するための英気を養う為に、集落唯一の宿である深緑亭に一泊することを決めた。

 宿は意外でもなく閑散としており、カーリャは、ゼファーリア大森林で活動できない職人達が一斉に引き上げた為だと推測し、実際にその推論はおおよそ、的中していた。

「水質も良くなさそうだよね。少し濁っているし。こういうところって基本的に井戸水だよね」

「井戸はあるけど、森に近いから純度の高い水質の川が近くにあるはずよ。そっちの方が綺麗なはずなのにね。井戸の方が近いから、おそらく運ぶのに手を抜いたんでしょ」

「王都から離れたら、みんなこんな感じなの?」

「王都が上品すぎるのよ」

 カーリャは投げ捨てるように言った。

「まあ、王都は恵まれているからね。水路も整備されているし。でも、地方都市や集落は大体こんなものよ。早く慣れるのね。お嬢様」

「馬鹿にして」

「警戒心もなく荒れくれ者のハンター連中に近付いていったら誰だって小言の一つも言いたくなるわよ。世間知らずにも程がある。私はとっても心配だわ。帰る頃には胃に穴が開いてしまうかもしれないわね」

 そういいながら、安物の麻で縫われたタオルを濡らすカーリャに、ミシューは少々驚きを浮かべながら。

「へえ、心配してくれるんだ」

 といった。

 カーリャは軽く息を吐きつつも。

「当たり前でしょ。連れてきた責任というものがあるのだから」

「責任を感じるのならば、せめて任務の内容ぐらい教えてほしかったけれどもね。なによ。竜退治って。馬鹿にしてる?」

「まだ、冗談を本気にしているのかしら。竜なんて倒せるわけないでしょ。攻城兵器や戦術級の魔術が必要よ。そしてどちらも、二人では運用不可能だし」カーリャはタオルで顔を拭き「個人的な目標の到達点としては気取られる事なく巣穴を発見したいわね。気取られると逃げられる恐れもあるから。その後は王都に援軍。攻城兵器の運搬は、あんまり現実的じゃないから戦術級魔術師を数人、王都から出張らせる流れになるでしょうね」

「戦術級?魔術?なにそれ?」

「そういうのは、あんたの方が詳しいでしょ。魔術師の専門学校を卒業しているんだから」

「まあ、そうだけど。ベルファンドとセインブルグってそういう魔術体系も違うかもしれないじゃんか。セインブルグ人のカーリャの口から、説明を聞きたいな」

「同じよ」

 と言いつつ、白い肌を拭き始めるカーリャ。彼女の白い肌はこういった荒くれた商売を行っているとは思えないほどに綺麗だった。真珠や大理石、あるいは白百合のように可憐で美麗だったので、ミシュはー少しだけ見惚れてしまった。

「基本的な魔術体系はセインブルグもベルファンドも同じ。運用されている魔術も似たようなものよ」

「へえ」

「ただ、ベルファンド王国はマギス式攻性魔術、セインブルグはダビデ式攻性魔術が主流だけどね」

「どう違うの?」

「ダビデ式攻性魔術は、類的には戦術に組み込める精度に仕上がっているわ。テレーマ式、いえ魔術協会といった方が良いかしら?魔術協会で流布される主流な魔術形態、在野の魔術師がよく使うウィザードレガシーに記載された攻性魔法となら比べるほど無い威力を誇るわ」

「へえ。すごいんだね」

「だから、習熟には高い練度が求められる。ダビデの選定が厳しいのもそれが理由。技術力の低い魔術師ではダビデ式攻性魔術を習熟できないから」

「私は、使えないな」

「門外不出だから。まあ、その割には在野でも使える魔術師が多いけど。大方、退役軍人が術式の詠唱法を横流しでもしているんでしょ。嘆かわしいばかりだわ」

 カーリャは次に、足首を拭き始めた。

「ダビデ式攻性魔術は個人が行使できる精霊魔術では最高位に位置するわ。ただ、威力的にはやはりマギス式の方が強力と言わざろう得ないわね。これも説明した方が良い?あなたの方が詳しいと思うけど」

「カーリャに説明してほしい。カーリャの見解が聞きたい」

「解ったわ」

 ミシューに対して頷きながらも、こういうところは魔術師らしいなとカーリャは思った。


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