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#24 三河と賽瓦の約束

私は三河故貝みかわこがい。クラスでは目立たない陰キャだ。そして、横にいるのが賽瓦縁さいがわらゆかり。こっちも同じく陰キャ。この前話してからというもの、なぜか価値観がすごく似ているので一緒にいる。私としても人と一緒に居られて有難いのだが、今日は何かあるようで...


放課後、適当にサイゼリヤでご飯を食べた私たちはそのまま神社に行く。理由は、賽瓦が神社に向かって歩くからだ。彼女はたまに何の理由も説明せずに行動するが、まあいつものことだし。何か理由があるのだろう。黙ってついていく。神社につくと、彼女は縁側に座った。私に対して隣に座れ、とアイコンタクトしてくる。それに従い、黙って隣に座ってみる。

「...」

「...」

なんというか、場所が違うだけでいつもとやってること別に変らないような...図書室でも大体こんな感じだし。神社だから自然が多くて癒されるのは違う点だが、それ以外は変わらない。黙っている賽瓦。黙っている三河。聞こえるのは風の音と、鳥の声、たまに誰かの声。とても落ち着く。これこそが、私が彼女と一緒に居たいと思う一番の理由だ。

「...」

「...」

このまま昼寝でもしてしまおうかと思っていた矢先、彼女が話しかけてきた。

「ねぇ、あんたの言ってた幸せって本気?」

賽瓦が私に質問するなんて珍しい。...授業であれだけ幸せとは何かについて私が語ったのだから、嘘かどうかなんて確認する必要はないと思うけれど...いや、違うな。彼女は本気かどうかを聞きたいんじゃなくて、何か自分のことを聞いてほしくて話しかけたんじゃないか?そうでなければ、お互いにわかりきったことを聞く理由が思い浮かばない。なにを聞いてほしいのかはまだわからないが、とりあえず彼女の問いに答えよう。

「本気だよ」

「あっそ...ならいいか」

なんか一人で納得してるな。多分、心の準備が必要なぐらい深いことを話そうと思っているんだろうな。”ならいいか”の部分は明らかに私への答えとして不要で、自分への確認として言ったから、この後何か大事なことをいうために覚悟を決めているんじゃないだろうか。もしくは、何かを言おうとしたけれど、私の語った幸せが本気だとわかって安堵して辞めた?絶対違う。それなら、あれだけ語っている時点で本気でないはずがない。わざわざ聞くのは賽瓦にとって形式上でも答えを確認しなければならないことだったからだ。何を話すのか、気になるなぁ。

「あんたさ、人と話せなかったことある?」

人と話せなかったこと?...思い返してみれば少しはある。誰も周りにいなくて話せなかったり、話そうとしたけれど相手に迷惑かもしれないと思ってやめたり...普通の人ならたぶん同じような経験があるだろう。ここは素直に答える。

「ちょっとだけなら」

待てよ?”人と話せなかったことある?”という問いをしてくるということは、少なくとも賽瓦本人か、その周りの人が多少なりとも人と話せなかったことがあるという意味だ。つまり、ここから先は非常にデリケートな会話になることが予想される。実際、彼女の声が少し震えていた。ということは、彼女にとってつらいことを話す可能性が高い。それは悲しい。彼女はあまりしゃべらないが、だからと言ってメンタルが強いとかそういうことではない。なので、つらい話をするのであれば、彼女に対して逃げ道を作ってあげたほうがいい。

「賽瓦が何を話したいのか知らないけど、つらい話ならいつでもやめていいぞ。私は黙って聞いてるから」

賽瓦は少しだけ驚いた顔をして、すぐに元の顔に戻った。私がそこまで考えているとは思っていなかったらしい。もし、ここから変な話されたら私が馬鹿みたいになるけど、それはそれで面白いな。

「ありがと。じゃあ、あんたはいつも通り黙ってて」

「あい」

ここから先は言葉を掛けないほうがいいだろう。下手に言葉を掛けたら、彼女が自分の中を整理できなくなる可能性がある。そう考えた私は、カバンからポケットティッシュを出して待機した。

「私さぁ、家族は別に悪い人たちじゃないけど、アニメとかゲームとか嫌いな人たちだったんだよね。あんたも知っての通り私はアニメとかゲームが大好きだから深夜に隠れて見たりして怒られたわけ。ここまでは、よくある家庭の話。だけど、家族が誰も自分のことを理解してくれないって思った私は、友達と話すようになったの。...最初のほうは良かったよ?小学生の頃はみんな話してくれたし、いつも遊んでいて楽しかった。でも、中学生になってから段々みんなが冷たく対応するようになっていった。当時の私には理由がわからなかったけど、今考えると人にわかりやすく言葉を伝える能力が低いんだろうね。だから、みんな私がそういう人だってわかったら避けるようになった。家族も、私がそういう人だってわかってたけど、私はパパもママも私のことを理解してなくて、適当に否定してるだけだと思ってた。そんなだから、高校生になっても友達ができなくて、ずっと自分の殻に閉じこもってたの。正直、故貝ぐらい私のことわかってくれてる人がいなかったら、大学行っても友達出来なかったと思う...あ、藤井は別ね。あの人はちょっと外れてるから。何も考えてないというかなんというか...」

そうだったんだ...そんなつらい過去があったんだ...まあ、私も大体同じだけど。賽瓦と違う点は、それでも話してくれる友達が少しはいたことか。

話はまだ続くようだが、すでに賽瓦は結構心に来ているようで、体全体が震えている。私は背中をさすりながら黙って続きを聞く。

「だから...あんたはずっとそこにいてね...」

話の続きを待っていながら彼女の背中をさすっていたら、いきなり彼女が私の目を見てそんなことを言った!まあ、気持ちはわからないでもないし、とても嬉しいんだが...少し早すぎるんじゃないだろうか?確かに、賽瓦と私の相性はこの世で指折りかもしれない。けれど、私たちには違う点もあって、ずっと一緒にいられない可能性もある。ここで”うん”と答えるのは簡単だが、それをしてしまうとお互いに縛り付けられてしまう。彼女の寂しさと、私という半身を手に入れた喜びはわかるが、それを無条件に肯定するのはよくない。そして、お互い言葉が枷になるとわかっているはずなのに、それを言ってきたということは、まだまだ私のことを信用しきれていないからそうやって言葉で縛ろうとするんだな。彼女もまだ私との付き合いが短いというべきか。ここは意趣返しとして無言で答えよう。


私は、無言でリュックの中から借りてきたインドネシア料理の本とハイパーインフレーションの漫画を取り出し、漫画を彼女に渡す。私はインドネシア料理の本を読み始める。

「??」

彼女は何が何だかわからないといった表情をする。仕方ないから、一言だけ言っておこう。

「今度、うちに来たらちゃんとその漫画返せよ」

それだけで十分だったのだろう。彼女はティッシュで涙を拭き、私と一緒に本を読み始めた。

聞こえるのは風の音と、鳥の声、たまに誰かの声、鼻をすする音とページをめくる音。さっきとは少し違ったが、神社での読書はとても落ち着いた。


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