昼休みの図書室 #17
私の名前は、三河故貝。何の変哲もない男子高校生だ。今日は図書当番だったので昼休み中は図書室にいなければならない。まあ、本を読んでいれば済むので楽ではあるんだけど、一緒の当番の人と仲良くやれるかどうかが不安だ。
昼ご飯を食べ終わると、すぐに図書室に向かう。図書当番は本の貸し出しと整理をするだけの簡単な仕事ではあるが、いつ人が来るかわからないので、できるだけ早く図書室につかなければいけない。
だが、ご飯を食べるのに少し時間がかかってしまったので、もう人が来ているかもしれない。図書委員として、待たせるわけにはいかないのでこうして急いでいる。
「あぁ~、もうちょっとご飯の量減らしてもらうべきだったかもな...」
そんな独り言を漏らしていたら、図書室についた。中をよく見ると、人影がある!間に合わなかったか?
「遅い。あんた、ちゃんと仕事する気あるの?」
...賽瓦だったか?先に来ていた図書委員である彼女に、そう言われてしまった。
「悪い。ご飯食べるのにちょっと時間かかっちゃって」
幸いにも彼女はそこまで怒っていなかったようで、それ以上は何も言われなかった。なんとなく似た雰囲気を感じるから、できれば仲良くしたいと思ってたんだけど、最初からこれじゃあちょっと難しそうだな。
「じゃあ、私は本の整理をしてるから、あんたは受付よろしくね」
手に本を持ちながら、彼女はそう言って図書室の奥に消えた。パソコンに残った履歴を見ると、今日貸出された本は一つもない...もしかして?...いや、まだわからない。今は普通に仕事をしよう。
「返却ですね。わかりました。貸出ですね。はい、終わりました。予約ですか?出来ますよ。題名は何ですか?...ファイアパンチ?残念ながらうちの図書館にはないですね。チェンソーマンならありますよ。...わかりました。3巻を予約しておきますね」
順調に仕事をこなし、少し暇な時間ができた。返却の本がたまってきたので、整理しようかと思ったが、よく考えたら賽瓦さんが整理してくれるんだったな。...うん?受付をしている間、ずっと返却本を積み上げてきたが彼女は一回も取りに来なかったぞ?まさか!
「賽瓦さ~ん?返却本を持っていってほしいんですけど~」
そう大きな声で言ってみる。だが、返事がない。気になって図書室の奥にいるはずの賽瓦さんを探してみると、なんとそこには、ソファで本を開いて寝ている賽瓦がいた!
「おい、賽瓦さんよぉ。なんで寝ているのか説明してもらおうか?」
言いながら肩をゆすって彼女を起こす。すると、寝ぼけナマコで起きた賽瓦が、
「あ、もう昼休み終わった?さて、そろそろ教室に...」
逃げようとする賽瓦の肩をグッと押さえつけ、絶対に逃がさないようにする。
「痛い!あんた、なんでこんなひどいことするの!?」
若干痛そうに聞く賽瓦。えぇ...それ聞く?原因全部あなたにあるよね??なぜ開き直ってるのか。
「賽瓦が全然本の整理しなくて、探してみたらここで寝てたからだけど?理由教えてよ」
ちょっとだけ声に怒気を含ませながらそう答える。
「えぇっと...それは...昨日ちょっとゲームしすぎちゃって...」
え?そんな理由?まじで?なんて身勝手な...そんな理由で仕事をさぼっていいわけないだろ!
「ちょっと、それはいくら何でも自分勝手すぎない?私にちゃんと仕事する気ある?って聞いといてよくそんなことできるな!」
私が怒るたびに、賽瓦の体がどんどん小さくなっていく。なんか少しだけかわいそうだな。
「ちゃんと反省した?」
「うん、反省した!反省したから、そろそろ肩放してくれない?ちょっと痛いんですけど」
十分反省したっぽいし、仕事に戻ってもらうか。
「じゃあ、私は本の整理をやるから、賽瓦は受付しといて」
やっとやる気になったのか、賽瓦はようやくソファからその重い尻を上げた。
「はいはい、やればいいんでしょ。やれば。は~~、ちょっとは昼寝できると思ったのになぁ」
さっき受け付けた返却本をすべて整理し終わった私は、ソファに座りながら賽瓦の仕事具合を観察する。
「お、鈴木じゃん。あんた何読んでるの?...なんでストレス解消法の本を読んでるの?なんかあった?...あ~、いや、大体わかった。あんたも苦労してるんだね。はい、返却」
同じクラスメイトだったようで、少し話しをしていたが、仕事はしっかりしていた。
「鈴木に続いて江野畑も?あんたは何読んでるの?返却じゃなくて借りたい?なんて本を借りたいの?...国内旅行の本?まあ、あるけど。高校生が行くにはだいぶハードル高いと思うよ」
またしてもクラスメイトだったようで、話をしていたが、仕事はしっかりしていた。
賽瓦はその後もしっかり仕事をしていた。やる気はちゃんとあったようだ。さて、これで私もゆっくり本を読める…
誰かに肩をゆすられて目を覚ます。どうやら、本を読みながら寝てしまったようだ。
「おい、三河。お前、私にやる気がどうこう言って仕事を押し付けた割にはいいご身分だよなぁ?」
...怖い声がする。前を見たくない。
「返事しろよぉ~...じゃないとチョークスリーパーで寝かしつけてやるぞ。いいのか?え?」
返事をしたくないが、返事をしないと命の危険がある!急いで目を開けて目の前の図書委員に言い訳をする。
「これは!その!ちょっと授業中に集中しすぎちゃって...あと、賽瓦がしっかり仕事をしてて、私の仕事がなかったから...」
授業中に疲れちゃったなら仕方ないよね、と言われる可能性を信じてそう言い訳をする。
「返却本を整理したのも受付をしたのも私なんだけどさぁ、これって本来お前の仕事もあったよな?それに、授業で眠くなるのはみんな同じだから、何の言い訳にもなってないぞ。覚悟はいいか?」
まずい!本当にまずい!考えろ!考えなければ!
「あ!お前だって昼寝してたじゃん!私はそのまねをしただけだから悪くない!」
これなら通るだろ!せめて少しは攻めづらくなってくれ!
その瞬間、昼休みが終わるチャイムの音が鳴った。
「もう休み時間が終わっちゃった!これはまずいなぁ。三河!その、今回のことはお互い水に流さない?遅刻の理由は、図書委員の仕事が忙しかったからってことで!」
「わかった!お互い絶対裏切らないよな!最初に昼寝したお前が悪いけど、絶対に私のことは言うなよ!」
「そうだな!遅れてきたうえに、私の真似とか言って昼寝したお前が悪いけど、絶対に私のことは言うな!あと、裏切るなよ!」
急いで教室に戻りながらそうお互いに釘を刺す。
「お前本当に自分勝手だね。死ね」
「お前こそ自分勝手すぎるだろ。死ね」
「お前が先に死ね」
「いや、お前が死ね」
「レディーファーストって言葉知ってるか?今のお前にピッタリな言葉だと思うんだが。早く死ね」
「いやいや、三歩下がって男の影を踏まないのが女だから。男のお前が先に死ね」
お互いに罵り合いながら、早歩きで教室に向かった。結局二人とも授業に遅れて怒られたのは想像に難くなかった。