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第2話「真珠色の悪魔」

 野生のにおいがわずかに残る、香ばしい肉。目の前の湖で釣り上げたマス。干した穀物を水で戻し、煮る。


簡素な銀の食器に載せ、でも。野営としては立派な料理だ。デザートは木苺。メロディーは最近これが気に入っている。


 調理しているのは、メロディーという13歳の少女。仲間になって1月になる。最近、調理はもっぱら彼女の役目だ。



 あの日、ヒロミの手を取ったメロディーは、まるで妹の様に、彼と行動を共にしている。


常に一緒に居る、と言ってもいい。手を取ったのだ。プロポーズの様に差し出された少年の手を。信じたのだ。少年の誓いを。


最初は、まだ元気がなかったが、少しずつ、本来の明るさを取り戻してきた。


貴族や豪商の衣服を仕立てるファンレイン家の一人娘だけあって、幼いがレディーとしての教育を受けている。芯の強い少女だ。



この日、質素な朝食を取りながら、メロディーは言った。

 

「私も冒険者になる。教えて。ただ守られて子供みたいについていくのはイヤだから。」

 

「子供じゃないか…。」と、ヒロミ。


「キミもな。」と、ハリヤ。

 

メロディーはキッとヒロミを睨んだ。


「3つしか離れてないわ、“オネエサマ”。私にできることは、私がする。戦うことだって…。」


メロディーは小さな自分の手を見つめていたが、顔を上げ、言った。


「私にも戦い方を教えて。3人は冒険者なんでしょ?」



ここで真っ先に出番と思い、魔導書を片手に立ち上がったのはミオ。


「…剣の使い方を教えて!」


ミオは、いそいそと座り直した。ヒロミはブっと吹き出し、ハリヤーは驚いて、サカナの骨を飲み込んだ。



 それから、更に1か月。今は、腰に短めのレイピアを下げているメロディー。


要所に革の部分鎧を纏い、ちょっと無理した感じが可愛い。


…と、言ったら、また怒られた。



 一行は今、狭く細い街道を東へ向かっている。


世界では西に大きな帝国があり、東は未開地が多く野心家が向かう、とかなんとか。


比較的都会っ子であるメロディーが、まだ見たことのない世界を見たいといった。だから、野心溢れるヒロミたちは、東を目指すことにした。それだけの事だった。


――――――――――


 旅の天候はいつでも晴れが望ましい。風と雨脚が強い日に、悪戯に強行しても体力を消耗するだけ。


そう、今日は突然天候が崩れて来た。適当な場所があれば、休憩したいところだ。

 

今は、随分人里を離れた細い山道。馬車が一台通れるような、ぎりぎりの幅。


こんなに急変するとは全くツイてない。


左右のまばらな灌木の生えた岩肌を露出させた山々。この荒れようなら崩れてもおかしくない。暗くなる前に、もう少し、進みたい。進まざるを得ない。



 やがて、山道が少々下りになり開けたところまで出た。目の前に、やや浅めの峡谷が横たわる。


正面には、つり橋が10mほど掛っている。真っすぐ進むには、つり橋を渡たる。左に曲がれば上り坂。右を見ると、ほんの少し先といったところか、岩肌の隙間から立ち並ぶ民家が見える。


山間の村なのだろう。正面のつり橋は面白い位に揺れている。ミオの飛行呪文を使ったり、ヒロミは変化すれば飛べるわけだが、体を休めるには、村に行くのが良いだろう。宿があるかも判らないが。


――― 奇 襲 ―――


 路を少し進む。一刻も早く宿を得たいと近づいた所で、一行は異変に気付いた。


煙は雨と霧だけではなかった。黒煙が、至る所に細々と上がっている。



消えかけの黒煙。そう見える。


剣を抜くハリヤ。杖を構えるミオ。ヒロミも短い杖を取り出す。


「メロディー、僕から離れないで!」


4人は、小走りに近づいていく。



 目の前に広がる荒んだ光景。広場の中央に集められた布の袋、木箱、無造作に縛られ、泥の上に転がされた数人の女性、子供。


そして取り囲む、見るからに粗暴な男たちが、10数名。


後ろに半円を描くように連なって建てられた石造りの民家からは、窓という窓から細く消えるように伸びた黒煙が助けを求める手のようにたなびく。



下品な笑い、怒号。山賊か、野盗。そう思える。


「あぁ、ツイてねえ!これじゃぁ、橋が渡れねえ、待つしかねえな!」

 

「せっかく運び出した荷も、女共も、また中に戻すのか?」

 

「ああ、中で、女どもで遊んで時間を潰そうぜ。」


「あぁ?煙臭くてまだ入れねえよ。誰だい、火ぃつけやがったのは?…おおっと、俺様だった…。」


野盗は再び下品に笑った。



 「行こう!みんな!」瞬時に怒りを発火させて、ヒロミが飛び出す。


「ちょ、待て待て!」ハリヤ―がそれに続く。


置いていかれた少女は、「離れるなって言ったクセに…。」と拗ねた。


「まぁいつもの事だから。あのバカは。」ミオが、メロディーの横に着く。



 物音に、黒塗りの皮鎧を身にまとった男たちは振り返り、剣を抜いた。


真正面から、彼らの半分の身の丈しかない剣士と、3人の女が走ってくる。


女が増える事は望むところだが、残念ながら冒険者風だ。


そのうち2人が呪文を詠唱する。


赤毛の魔術師が頭上に炎の塊を作り出した。ほぼ同時に、金色の少女は天に向けて何かを叫び、黒雲を呼び出した。


「ファイヤー・ボール!」


「サモン・ライトニング!」ヒロミの唱えた呪文は、悪天候のみで使える招雷の呪文だ。


女性たちが転がされているため、男たちの中心部には呪文を撃てなかったが、


それでも、火球は4人の人影を一瞬で焼き払い、雷は3つの人影を焦げ付かせた。


ハリヤーが剣を薙ぎ、さらに2つの人影が崩れ落ちる。


一瞬で9名。



 荒事に慣れた男たちも流石に狼狽えた。こういった怖ろしい手練れにもっとも有効な手段に切り替える。


「…動くな!こいつらぶっ殺すぞ!?」


月並みなセリフだったが、効果はある。


なぜなら、彼らは助けるために憤ったのだから。


「それとも、こいつらと一緒に俺達を焼こうってか?はぁ~恐ろしいねえ、冒険者の皆さまは!俺達ですら、若い女は焼いてないってのによ!」



 人質をとり、話しかけてきたのは、髭を伸ばし、髪をそり上げた大男だ。


大きなカトラスを女性の首筋に当てている。この男がリーダーなのだろう。


大男の横にいた若い男が、ボスにサッと耳打ちして、女性の一人を無理やり立たせ、ほんの短い横道へ連れて行こうとする。


その先には、細い横道の先には、6本の石の柱に囲まれた、井戸のようなものが見える。


上に滑車があり、鉄の鎖が吊り下げられている。只の井戸ではなさそうだった。



 若い野盗が、冒険者に向かって叫んだ。


「…聞こえるか?いきなり襲って来る、俺たちと同類の皆さまよ!この落とし戸は、つい最近まで使われてた坑道の入り口だそうだ!へへ、中に化けモンがいるんだってよ!?」


鎖がガリガリと音を立てて鉄の落とし戸を持ち上げ、次の瞬間、その男は女性を突き落とした。


それが垂直のものなのか、角度があるのかはわからない。悲鳴がただ聞こえた。


「どうする?助けたいなら開けておいてやるぜ!?」


ヒロミは、「頼む!」そう一言残し、残党に目を配りながらも、落とし戸に向け、走り出した。


「ま、待って!私も行く!」


メロディーも走り出した。


「君は来るな!ミオのところにいるんだ!」


メロディーは答えず、ただ後ろをついて走った。背後からミオの呼び止める声を聞いたが、ここで止まるよりは正しい気がした。



 ヒロミが、落とし戸にたどり着くと、先程の男は鎖の巻き取り機械を押さえながら、こういう。


「おっと、俺を攻撃しようと思うなよ?俺が手を離したら、閉じてしまうぜ?重たい鉄の扉だなぁ。お前さんが巻き上げるなら、だれが中に行くのかなぁ?」


「僕が入ったら、閉じる気のクセに。それとも入りかけで挟む気かい?」


「どうかな、俺の慈悲次第だが、綺麗なオンナは、殺さない主義でね。」


落とし戸にたどり着いたメロディーが叫ぶ。


「ヒロミ!声が聞こえる!あの女の人だよ!」


そして、こともあろうに、「待って!今助けます!」と、急な暗がりの階段を駆け下りた。


手に、細いレイピアをひらめかせて。


…ヒロミの選択肢は消えた。メロディーの姿が見えなくなる前に、同じく、急な階段の落とし戸に転がり込んだ。


直後に、ゴス、という重たい鉄の音が頭上から聞こえ、視界は真っ暗になった。


もう、簡単に開くことは無いだろう鉄の重たい蓋。女3人を閉じ込めてやった。そう、思い込んでいるだろう。


――― 残された2人、村の中央にて ―――


 人質、というのは基本、攻勢に回った者が使う手段ではないだろう。

 

冒険者は、2名になった。1人は小人、1人はラッキーなことに若い女だ。



 立場が変われば、狩られる側から、狩る側へ。見方も変わるものだ。


魔法を使うようだが、なあに。魔法使いなど、力づくで押さえてしまえば何もできない。


上手いこと、人質で分断させた今。次の行動は回りこんで女をとらえることだ。


雨脚が相変わらず強い。日も落ちてきた。音を立てず回りこむには最高の状態だ。



「あ~2対8だよ。あの馬鹿ミエミエの罠に飛んでったよ飛んで火にいるナントカだよ。格言忘れたよ。」


「まー何とかなるんじゃないか?」後ずさり、ミオの前に立つハリヤ。


「あんた、忌の際もきっとそういうよね?」


「判ってるじゃないか。」


ミオは、あまり大きな手振りをせず。弱い魔法を静かに。ぶつぶつとつぶやいた。


…ほんの少し、地面から体が浮いた。同じ呪文をハリヤにもかける。


「お、私、背高くなったではないですか?」


「今だけだから、存分にその景色楽しみなさい!」



 魔術師は接近されたら終わり。


この間倒した…メロディーの未来を奪った、魔術師の最期を思い出す。


 でも、そんなことは、私たち魔術師は、みんな知っているんだなぁ。


 杖を折られた場合。体を掴まれた場合。敵に取り囲まれた場合。


「ハリヤ、弓に変えて。」


じりじりと、盗賊たちが間合いを詰めてくる。きっと背後には、回り込んでくるヤツが居るだろう。

 

「ボス猿たのんでいいかしらん?」


「OK。どうせ私は策略などない陽気な小人だからな。」


 突然、ミオの周囲から影が濃くなったかと思うと、数名の、黒づくめの男達が彼女に襲いかかってきた。


だが。魔術師は、必ずしも呪文を唱える必要はないのだ。例えば魔法の指輪は簡単な単語で効果を発動するし、魔法の杖なら、念じるだけで良いかも知れない。


そして、<すでに掛けてある呪文>なら、思うだけいい。


ミオとハリヤの2人は、その場ですっと宙に浮いた。レビテーション。浮遊の呪文。


「この杖は、いかづちだぁ!」


内緒だが、メロディーの仲間の人形を粉砕した杖だ。ミオの戦利品になっている。


足元へ。自分が居た地面に向けてただ雷を撃ち放った。雷は、地面を円形に広がり、周囲の男たちに伝わっていく!


むしろ至近距離でなければ、威力は拡散し、大したことはなかっただろう。ツキのない事だ。


そして、ミオとハリヤ自身は浮いている。自分達に雷は伝わらない。



ハリヤは弓をつがえる。強風の中、狙いを定める。


うっすらと見える大男に狙いを定める。


ぎゃあっと叫びを上げ、カトラスを落とした男の胸に、深々と刺さった矢が見える。


続いてミオの放った魔法、光の矢が次々と襲い掛かり、リーダーの周りに居た残党は、無口に泥水へ倒れ込んだ。


「兄貴いい~!」


ヒロミたちを落とし戸に閉じ込めた男は、、リーダーの死に動揺し、背を向けて逃げ出す。


雨に消え入りそうなみじめな人影に向け、ハリヤ・フェルナは再び、弓を引き絞った。


私たちはなぁ、悪党よ。悪いが、人間のマナーやら義には疎くてね。


…矢が雨を切る。


背中から撃つのも、お前らのような悪党を野に放つよりは、好きなんだよ。



――― 廃坑の魔物 ―――


 ミオとハリヤの戦いが終わる少し前。


急な階段を駆け下りたメロディーは、うずくまり、呻く女性に声をかけた。


「大丈夫ですか!?」


言葉と共に出た息は、冬のように白かった。


冬を思わせるほど、地下は暗く冷えていた。


あ、とメロディーは声を上げる。女性の腕が、あらぬ方向に曲がっていた。


30半ばの…栗色の髪を背中のあたりで縛ったその婦人は、痛みにずっと歯を食いしばりながらも、腕よりも別なことを懇願する。


「早く、助けを呼んでえ!ここには、化けものが居るの!お願い、あいつが来る前にい!」


「大丈夫です!私たち冒険者だもの!あなたも大丈夫です!」


「メロディー!」ヒロミが慌てずに呪文を唱える。「ライト!」明かりの呪文。


そして、すぐに状況を理解し、治癒の呪文を唱え、女性の腕を癒した。



女性の呻きが小さくなる。しかし呼吸は落ち着きを取り戻すことは無く。


「ありがとう、早く、早く上に!あなた達も!」


婦人がそう言った時。聞いたこともない獣の唸り声が坑道の奥から聞こえてきた。


…中に化けモンがいるんだってよ…


聞いたことのない獣の声。森を支配する自然魔法の使い手が聞いたことのない、獣の声。


魔法の光の切れ際にある細い坑道から、そいつは姿を現し、まっしぐらに。ヒロミ達に向かってきた。


「メロディー!その人と、階段を上がるんだ!」


ヒロミは2人の前に立ちふさがった。



サバンナの獣のようなスピードで、その獣はヒロミに襲い掛かった。


体長は2mほど。氷のような。いや、“氷の”体毛に覆われ、


爪も牙も透明に光り輝いていた。目だけは赤く輝き、本物の生き物のように、ぎろぎろと動き獲物を確かめる。


…自然魔法の使い手だからこそ、この生き物に、野生の命の炎がないことがわかる。


ゴーレムか。魔法生物か。普通の生命ではない!虎。氷の虎。



 階段を駆け上がったメロディーは、腕で、肩で、必死に落とし戸を持ち上げようとする。


婦人が途中から加わり2人がかりで押すが、わずかに浮き上がりもしない。


大の男が、滑車を使って持ち上げる鉄の蓋なのだ。だからこそ、これまで獣が地上にはい出ることもなかったのだ。


あせり、振り返り、ヒロミの助けを求めるメロディー。


―――メロディーは、そこに、初めて、異形を見た。


虎の牙がヒロミに突き立てられる瞬間、彼は叫んだのだ。



「真珠よ!我に力を!」



――― 真珠色の悪魔 ―――


真珠色の血液が、心臓から止めどなく溢れ、体にまとわりつく。


まるで一度溶けたように真珠の液体は縮まり、急速に膨れ上がる。


そして人のような形を作った。


物理法則を無視する如く。体長は3mにもなり、頭には。鹿のような、ねじくれた角。


竜と昆虫を混ぜたような顔、4つの金色に光る目。


腕は先に行くほどニワトリのようになり、巨大なかぎ爪を持ち。腹部には牙を生やした巨大な口。


その口の中には、うごめく炎が見え、生き物であることを拒否するように、内臓は1つも見当たらなかった。ただの空洞だった。


甲虫を思わせる羽。竜のような下半身。


そして、その全身が。真珠色に輝いていた。



――我こそは、真珠色の悪魔。



 悪魔はガッと素早く、氷の虎の顔を掴み、その牙を止めた。


メロディーは凍り付く。あれほど中性的に美しかったヒロミの、惨めなまでの変貌に凍り付く。


みんなが言っていた変化ってこのこと!?


可哀そう…可哀そう…これがもう1つの姿だなんて。普段の美しさは、これと引き換えなの?



階段を上がっていた女性もまた、恐怖に叫びをあげた。


「あ、悪魔!?ばけもの――!!」


ヒロミは…真珠色の悪魔は、もう片方のかぎ爪で、氷の虎の首を掴む。


そして、自らの腹部へ、怖ろしい巨大な口へ、虎の頭部を押し込む。


巨大な口の何本も生えた牙が、キュウリをかじるような音を立てて、虎の頭を噛みちぎった。


虎の断末魔の叫びはすぐに収まった。ばらばらと、氷の塊に崩れて落ちた。



 ヒロミ…。ヒロミだよね…?


メロディーの不安げな声に、少し、心が痛む。


悪魔の姿はゆっくりと人の大きさに縮み、乳白色の光沢の体表は、溶けるように、心臓へ吸い込まれるように消えていく。


ヒロミは元の姿へ戻った。


「うん…。ぼくだ。」


そう、小さく答えて、それでもヒロミは自分の役割を果たそうとする。


鉄の蓋を開ける為に、階段に近づいた。


「ひぃぃぃ、来ないで!!来ないで悪魔!!」


ヒロミは、立ち止まった。


人を救おうと。何人救おうと。そうだ、誰が自分を人と思うだろう。


「鉄を石に、石を木に」鉄の蓋は、呪文の力により、木の板に。


女性は、悲鳴を上げながら、木の蓋扉を押し上げて逃げ出て行く。


メロディーは、その背に向け、叫んだ。


「ヒロミは…!悪魔なんかじゃないわ!あなたを助けたじゃない!」


氷の魔物を倒したからだろうか。少しずつ、坑道内に暖かさが戻っている様な気はするが、依然として肌寒い。


「私を…守ってくれたじゃない。」



――― 終わりを迎えた村にて ―――


 雨はようやく小ぶりになり、やがて日の光。


村では、ハリヤが村人を開放し、すっかり相談役になっている。



 女性たち、子供達を無事救出し、自由を与え…。残念ながら、そんな綺麗ごとで収まりはしない。


男達は全員殺されていた。失った家族や。焼かれたものが戻るわけではない。村にとって良いことなど、1つも無い。


坑道の奥で、封じられていた魔物を出してしまったことも。そんな折、そんな村を野党が狙ったことも。男達が居ない今、鉱物を掘る者は居ないであろうことも。全て、最悪な事ばかり。


彼女たちに、どんな思い出があろうとも、すぐにでも、血に染められたこの村を捨て去るだろう。


ヒロミたちが坑道の奥を調べると、古の魔術師と思われる研究室にぶち当たった。魔物は、この番人だったのだろう。部屋に在った、魔術師の遺物。金貨や宝石など。それを頂いて、冒険は終わった。


半分は、女性たちに、分け与えた…。


――――――――――


 夜が明ける。


女性たちは、冒険者に礼をいい、僅かではあるが、食料を分け与えてくれた。


天候は晴れ。風も収まり、あの、つり橋も渡れることだろう。


一行は再び歩き始める。



メロディーは、妹の様に、いつも通りにヒロミの横に立つ。


彼女は未だに、逃げて行った婦人に対し憤りを感じていたが、それでも、あの夫人が、ヒロミの事を誰にも言わなかったらしい、それだけは感謝している。


あの夫人も、本当は判っていたのかも。



ふと、メロディーが手を繋いでくる。


「ヒロミ。わたしは、怖くなんかないよ。ヒロミは、ヒロミだもの。」



――暖かい。


この暖かさは、きっと、太陽のせいなんだろう。


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