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第1話「人形のメロディー」前編

ハイファンタジー、新シリーズです。ダークファンタジー寄り。

胸に悪魔のアーティファクト”魔王の真珠”を埋め込まれた少年の、冒険と、運命と、愛と。

TRPG・RPG好きな方、リプレイ等お好きな方、お時間ありましたら是非。


 旅の始まりは、間違っても美しくなどなかった。


 草原が途切れ、深い森に切り替わるあたり。


森の奥は暗く、不気味に静かで、足を踏み入れるのを躊躇する。


深くうっそうとしていて、その奥に人の理解を超えた恐ろしいものを想像させる。


そして、実際に、この世界には、人ならざる者がそこらじゅうにいる。


 

 とはいえ、冒険者たちはその恐ろしい住人たちを相手にするのが仕事のようなものだ。


いま、まさに草原の切れ目に差し掛かった3人の若者も、森に恐怖のなど感じていない。


うち2人は、むしろ、テリトリーにすら思っている。



 1人は、背の丈が大人の6割ほどの亜人、小人族の戦士だ。


彼自身。人ならざる者、だ。ハーフナー。森の民と世間では言われている。朗らかで気さくな彼は、まるでピクニックに向かうが如く、穏やかな笑顔で草原の切れ目に向かう。


実年齢は40を超えているが、人間に換算すれば約半分。小ぶりの剣を差し、盾は小型のバックラー。濃い緑色の髪と青い瞳。誰からも好かれそうな安心感をまとっている。



 2人目は、あどけなさを少し残した、清楚な美しさを持った女だ。


腰まで長く伸びた、燃えるような赤い髪。簡素で清潔感のある布の魔法衣。手にしているのは魔法の杖。当然、魔術師だ。


注意深くあたりを見渡しながらも、清純な印象からは想像つかない、妙にライトな毒舌を2人に浴びせる。



 3人目は、金よりも黄色みが強く、光り輝く緩やかなウェーブの長い髪の、絶世の美女。左手の人差し指には、歴史を感じさせる古めかしい銀のリングが、うっすらときらめいている。


淡く透明な水色の瞳。青を基調の法衣に身を包み、一見、冒険者というよりも修道女。人の目を奪うことを目的に作られたような造形。といっても、生物学的には男子。


首から下げた木製の小さな聖印には、森の女神イシェンの紋章が彫られている。即ち、彼は世間では稀な、“自然魔法系”の僧侶だ。



 「あー、また森突入だよ。ブーツ汚れる。きっとジメジメしてカエルを踏んだような感触にげっそりするに違いないよ。それもこれも森大好き2人組のせいだよ。」


赤い髪の少女が不満げに仲間を見た。


「いいじゃないか。カエル可愛いじゃないか」と、小人の戦士。


「いやソレ関係ないし。」


「あんま文句言ってるとカエル召還してぶつけるよ?呼ぶよカエル。」


「カエル召還したら、あんたごと燃やす。」



 物騒な魔法使用宣言に、黄金の髪の若者はチッと舌打ちし、諦めて、後ろ手に何かを下に落とした。


「今落とした!何か落とした!!」


…足元では、元気よくカエルが跳ねて行った。



 さて、近隣の街で受けた今回の依頼。数名の村人や、冒険者が行方不明になっている。その村人たちは、どうやら、この森に入ってから帰って来ないらしいのだ。


「冒険者も」というところで引っかかるのだが、駆け出しなりに実績と才能ある彼ら3人は、無謀にもこの依頼を受けた。


そして、手早く森を含めたこのあたりの地図を手に入れ。あっという間にこの場所にたどり着いた。


それが、今。



 くだらないやり取りを続けながら。しかし、警戒心だけは失っていなかった彼らは、突然、森の入り口から聞こえたガサガサという音と動きを察知して、初めて冒険者らしい表情を見せる。


しかし、森から飛び出してきたのは、予想をはるかに超えるものだった。


いや、はるか斜め下だった。



 小さな影が抜け出て、叫びながら彼らの方へ向かってくる。


小さな、木製の「人形」が、草原を駈け彼らに向かって叫ぶ。


「助けて!お願い、私たちを助けて!!」


陽光の草原を駆ける、助けを求め叫ぶ、木の人形。



旅の始まりは、とてもシュールだった。


――――――――――


 先程、森から飛び出してきた身の丈40cmほどの木の人形は、身振り手振りを交えながら必死に助力を訴えてきた。


「私の名前は、メロディー!こんな姿だけど人間なの!」

 

 「仲間と旅をしていたんだけど、この森の奥に…廃墟に住む魔法使いに捕まって、こんな姿に変えられたの!」


 「お願い、その恰好、あなた方冒険者でしょ?助けてほしいの!私たちを助けてほしいの!元の体に戻りたいの!」



「どうする?ヒロミ?」


小人族の戦士、ハリヤが「リーダー」に確かめた。


年齢と実績を考えれば、戦士ハリヤこそが本来リーダーに相応しい人徳だし、チームの<頭脳>なら間違いなく、赤毛の魔術師・ミオである。

 

…ただ、どうせ、言ってもこの激情家は勝手に動く。


ヒロミ・ルーティリア。性別を超えた金色の美貌を持つこの少年。彼は、こころ優しいが感情の起伏が激しい。おまけに、1人でも突っ走る。人助けだと特にすぐ動く。


迷惑な善人で、困った奴。そんな弱点むき出しの甘っちょろい所も、ハリヤは嫌いではなかったが。


少年がリーダーである理由は、こういった、性格的な後ろ向きの理由と、もう1つ、重大な要素がある。



「助けるよ。もちろん。」


美貌の若者は真っすぐな水色の瞳で人形に微笑んだ。


「あ、ありがとう…!私、報酬もなにも、言ってないのに…」



 メロディーはその言葉に安心したのか、ハッと気づく。


森を駈け続け、「衣服」のすっかり剥がれ落ちた自分を見て、


うまく動かない人形の手で体を隠しながら、叫んだ。


「キャー!私、裸じゃない!!」


「………」


「…いや、人形だし。木だし。」と、ヒロミ。


「ひ、ひどくない!?レディーに向かって!」


ヒロミは、何となく、仏頂面のお姉さんを想像し、ついつい笑いながら、自分のマントを少し切り取り、人形の「メロディー」へ差し出した。


そして、人形、メロディーの案内で、森の奥へ向かったわけだ。 


――――――――――


 森に誰かが住んでいるなら、飛ばない限りだが、小さくとも道が出来る。


森の民、ハリヤがそれを辿る。


ヒロミは鳥を呼び寄せて、人形が通ってきた道筋を訪ねる。


メロディーの案内は勘といえばそれまで、思っているだけなので、この2つの情報を加えるのだ。


足元を特に気にして選びながら、ミオは小さく呪文を唱えた。「テレパシー」。


<2人とも。ええかのう。>


<何だいお婆さん。>


<ウッドゴーレムだよね、メロディー。ゴーレムを造れる奴は、相当上級。>


<そうだろうねえ。>


<しかも、人間の魂を封じるなんて聞いた事無い。まぁ、専門にしてるヤツは常人が知らん事にも手を出してるけど。>


<どんな奴なんだろうね。>


<変態でしょ?ただの。あんたと同じ。>


<ハリヤ、ここにひどい人がいる。>


<いいじゃないか。害のないヘンタイは個性だ。>


<個性だって。良かったね、お嬢さん。>


<酷い人たちだ。別に僕は女装していない。>


確かにそう言えばそうなのだが、青い修道服のような僧衣は、勘違いさせるに充分だ。実際、ヒロミと出会った人間は、9割は女性と思う。


<まあせめてもの救いは、ゴーレムは素材が硬質なほど錬成が難しいから、ウッドとかブロンズは作りやすいハズ…。>


メロディーは木で出来ている。勝機を見出すには、随分と頼りない根拠ではあった。



 やがて、森は唐突に、少し開ける。


かつては建築物があったと思われる、崩れた石組みがあわれる。


ここか。ここに、メロディーの仲間が捕らえられている。


「…行こう。」近くに在る筈の、地下への入り口を探す。


人が出入りする所に、何の痕跡も残さないことは難しい。まして、狩人の目を持っていれば。



「ここだと思うぞ。なにもないようだけどここで足跡が切れているな。」


「ちょっとまって、今、幻影破ってみる。」赤毛の魔術師がやっと本領を発揮する。


呪文を唱え、目の前の空間に手をかざし、パンッ、と破裂音。


呪文を破れたのだ。という事は、少なくとも、何とか戦える相手だ。


余りにも魔力レベルの差があるとき、魔法解除そのものが出来ない。


…暗い地下へ続く石造りの階段があった。



 ヒロミの背中にあるバックパックから顔を出しているメロディーが、言う。


「みんな、気を付けて。私の仲間の事、お願い…」


自分の体のことは、お願いと言わないんだ。ヒロミは、少しこのメロディーを好きになった。


なおさら助けないとね。君を!



 地下に向かうため、ミオがヒロミの短い杖に、魔法をかける。魔法の明りの呪文だ。


日の光とはいかないが、これで十分に明るさを保てるだろう。



「多分、入り口にトラップの類はないと思うぞ?」


森の人の見立てではそんな感じだ。相手は魔法使いなのだ。魔法をつかって侵入者を防ぐだろう。


メロディーはあのね、と大事なことを付け加えた。


「仲間の一人は、私の夫なの。お願い…!」


そうか。大切な人も、捉えられているんだね。


ヒロミは、メロディーに向かい大きく頷いた。



―邪悪の入口、最初の部屋―



 頑丈な石の階段を下る。意外と短く、すぐに石造りのやや広い部屋へでる。


天然の洞窟という訳ではない。明らかに建造物の廃墟を利用しているのだろう。



 ヒロミの杖が明るく室内を照らす。左の壁沿いにバスタブのような石組み。


正面には重そうな両開きの木の扉。


部屋の中に一見して、彼らに害をなすような存在は見当たらない。むしろ、小奇麗。



 先頭のハリヤが剣と盾を構え謎の石組みに向かい。そして、すぐに飛び下がった。


「うわ!」警戒の反応にヒロミとミオも身構える。


「この中、スライムだらけだぞ!!」


スライムは、彼らのような駆け出しにとっては凶悪な、対処不能な敵の一つだ。


なんせ、剣も斧も聞かない。火が、簡単にスライムを葬る方法だが、目の前にすぐ炎を呼び起こせるのは魔術師位のものだ。


しかし、石組みのバスタブの深さからは出られないらしく。襲ってくる様子はなかった。



「燃やしておく?」出番を悟ったミオが言う。


「そうだね。」


「ファイアボール!」


焼け焦げた、嫌なニオイが充満する。


ハイヤーが盾を構えて覗き込む。


「…OK。」



 ハリヤーはくるりと向きを変え、先の扉に向かう。


そして、ガッと扉のノブを掴み、力を込めた。

 


―――第2の部屋 青銅 ―――



 ヒロミはふと思う。何であの部屋は造られたのだろう。


いや。製造の理由じゃなく。なんのために使っている部屋か、だ。


メロディーの話をまとめると。敵の魔術師は人間をさらっている。奇怪なことに、人間をゴーレムにしている。


わかりやすい悪党だ(たぶん)。


入り口を魔法で隠したわりに、さっきの部屋にガーディアンがいないのは、なぜ?


 

 次の部屋。石組みの部屋であることに変化はないが、明らかに違うことは、剣を握った青銅色の戦士像が中央左右に立っていることだ。


部屋の中央を突っ切った先に次の扉がある。戦士像は、中央が通路だとしたら、その通路を挟んで両側に立つ。


「メロディー、君が逃げ出した時、この像はあった?さっきの扉は?開いていた?」


すぐに近づくような愚挙はせず。杖を構える。


「いや、像は覚えてないけど。扉は開いていたわ…私人形だから開けられないし…」


「…なるほど、呼び込まれたわけだ、僕たちは。」



呼び込まれた?メロディーは、仲間の人形が作ってくれた隙間を抜け出しながら、彼らに向かって叫んだ言葉を思い出した。


私、<助けを呼んでくるね!必ず来るから待ってて!みんな!>


「…聴かれていた?見つかっていた?そんな!」



ギシ。ギシと音を立てて。青銅の戦士が床に足を下す。

 

戦闘開始だ。


  

 ハリヤは、一瞬で間合いを詰める。この速さを、人間の戦士ではそう簡単に真似できない。


そして、一閃!像の足を切つける。見事な技だ。注意を引き付ける意味もある。このパーティーの通常形では1トップの前衛なのだから。



そして、ヒロミが僅かに前に出て、ロッドを構える。


すぐ後ろで、ミオが呪文を唱え始める。


後衛の2人に向かい始めていた戦士像の胸に、次々と光弾が穴をあける。


ブロンズは、彼らにとって大きすぎる障害ではない。


…ヒロミの少し前で、1体のブロンズゴーレムは倒れ、割れた。



その時。バックパックから身を乗り出したメロディーが、倒れたゴーレムの顔を見た。


「うそ…グレゴール…あなたグレゴールなの!?」


3人はその言葉に躊躇せずにいられない。


青銅の戦士の顔は、確かに妙に人間くさく作りこまれていた。むろん、彼らに面影は見当もつかないが…。



一瞬惑ったハリヤの前に、大きな青銅の拳が迫っていた。


「コイツも、元人間か。すまん。」


だがハリヤは難なく避けると、先程切り付けた足を再度攻撃し、今度は砕いて見せた。


音を立てて転げる青銅に、ハリヤは一瞬祈る仕草をする。


切り落とす、首。


同時に、後ろからは援護の光弾が、青銅の胸に穴を開けた。


――戦いは、終わった。


 

 人形のメロディーは、ヒロミのバックパックからぴょんと飛び降り、崩れた像を覗き込んだ。


「こっちの人は、知らない…。」


「ごめんなさい…グレゴール…。」


グレゴールは彼女の仲間で、屈強な戦士であったという。


そんな彼女の様子を見て、ヒロミの怒りはまた湧き上がる。


「…許さない。」


「…落ち着きなさいよ。まだボスに会ってない。」


ミオが、ヒロミの胸をポン、と叩く。まさに猛獣使いだ。


もう1人の、冷静なオトコも口を開く。


「さっき、呼びこまれたといったか。ヒロミ?」


「メロディーは、わざと見逃されたんだ。もっと<人間>を連れてくるために。」



後編に続く――。



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