第8話14さようなら
絶望の束縛、セメントの棺
フィードは素早くニックスをキャッチした。
だが、安堵する間もなく——
ズドン!!
轟音とともに、死泥鬼が目の前に現れる!
「っ……!」
フィードが反応するよりも早く、鉄槌のような左右の拳が、彼の身体に炸裂した!
ドガッ!ドガッ!!
激しい衝撃が内臓を揺さぶる。
「ぐっ……!」
耐えながらも反撃を試みようとするが、その隙を狙うかのように——
シュンッ!!
ニックスが素早く立ち上がり、横から攻撃を仕掛ける!
——しかし。
「甘いな。」
死泥鬼の足が、まるで鞭のように鋭く振り抜かれた。
——ズドォン!!
ニックスの身体が空を舞い、岩壁へと叩きつけられる!
「……ッ!!」
フィードの目が見開かれる。
その一瞬の隙を逃すはずもなく——
死泥鬼は静かに右手を上げた。
「凝縮」
その言葉とともに、右腕の横に巨大な円柱が形成されていく。
まるで岩そのものが圧縮されたかのような漆黒の柱。
それは鈍く輝きながら、圧倒のな破壊力を宿していた。
「……くっ!」
ニックスが再び立ち上がる。
しかし、その身体が完全に起き上がるよりも早く——
ズシャァッ!!
円柱がニックスの身体に叩きつけられた!!
ドゴォォォン!!!
凄まじい衝撃波が炸裂し、大地が抉れる!
「ニックス!!」
叫ぶフィード。
——だが。
その声すら届かぬうちに——
ゴオォッ!!!
同じ円柱が、今度はフィードへと振り下ろされる!
「っぐぁ……!!」
圧倒のな破壊力が彼の身体を粉砕せんばかりに叩きつけた!
再び吹き飛ばされる二人。
視界が歪む。
そして——
——突然、すべてが暗転した。
「……な、に……?」
漆黒の闇が二人を包み込む。
いや——
違う。
これは、ただの暗闇ではない。
二人の全身が、何かに覆われていた。
「……セメント……?」
——ゴゴゴゴゴ……!!
その正体は、死泥鬼が操るセメントの拘束!
「フン……」
彼は不敵に笑う。
「硬くもなり、柔らかくもなる……これこそが、俺の魔法の利点さ。」
——バキィッ!!
突如として、セメントが硬化する!!
「なっ……!」
二人の身体は完全に固定され、指一本動かすことすらできなくなった。
「これで終わりだ。」
死泥鬼の拳が、二人の胸元へと突き出される——
——ドガァァァン!!!
直撃。
激しい爆裂音が響き渡る。
あまりの威力に、セメントの拘束すら砕け散った。
そして——
二人の身体が、再び宙を舞った。
—— ドサッ……!!
地面に転がるニックス。
彼は、もはや立ち上がる力すら残されていなかった。
身体が痺れ、呼吸すらままならない。
「……このままじゃ……」
意識が朦朧とする中、思考が渦巻く。
—— もし、俺が……あの時、もっと力を発揮できていたら?
—— もし、俺が……最初から全力を出していたら?
もしかしたら、勝てたかもしれない。
だが——
「……ああ……」
声にならぬ声が漏れる。
違う。
すべては——
最初の判断が、間違っていたのだ。
「最初は、お前たち二人と“まともに戦える”と思っていた。」
死泥鬼は、ゆっくりと二人に近づく。
「だが……結局、お前たちは“青桐”と同じレベルだったな。」
その瞳には、興味すら残されていなかった。
彼は冷酷に、二人の首を掴み上げる。
「……もっと力を発揮できればなぁ。」
まるで、哀れむような声色で。
だが——
「現実は、残酷だ。」
——ブンッ!!
二人の身体が、無造作に空へと放り投げられる!
そして——
「終わりだ。」
——ズシャアァァ!!!
彼の両手から放たれた魔力が、空中の二人を飲み込む。
それは——
黒く、冷たく、絶対的な拘束。
二人は、再びセメントに包まれた。
「……さようなら。」
死泥鬼の囁きが、静かに響く。




