第55話 06 紫焔に誓う戦意
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そして今、最も危うい状況に立たされているのはニックスだった。
全身が灼熱の炎に焼かれるかのような激痛に苛まれながらも、彼はなおも必死に身を起こす。
「本当に強いんだね。」イリラの声には嘲弄と軽蔑が混じっていたが、わずかに驚きの色も滲んでいた。
「これ以上痛めつけるのも、少し気が引けてきたよ。動くたびに、骨と肉が裂けるような痛みが走っているんだろう?それでもまだ続けるつもり?ふふ……どうしてそこまで執着するのさ。おとなしく倒れてしまえばいいのに。別に殺すつもりはないよ。そんなことをすれば、かえって“あの人”に叱られてしまうからね。」
ニックスは答えず、ただ剣を地面に深く突き立て、それを杖のように頼りながら立ち上がる。
かすれた声で、しかし揺るぎない意志を込めて言葉を紡ぐ。
「……動力?そんなもの、もともと存在しないさ。怖いかって?もちろん怖い。倒れたいか?もちろんだ。いま息をするたびに傷が開き、身体の隅々まで軋むような痛みが走る。動くたびに全身が崩れ落ちそうになる。……そうだ、このまま戦い続ければ、本当に命を落とすかもしれない。だが、それでも俺には戦わねばならない理由がある。ここで倒れてしまえば、この戦いは終わってしまうだろう?」
「たとえ私を倒したところで、彼らが目を覚ますことはない。」イリラは冷ややかに言い放つ。
「違う!」ニックスは即座に反駁し、血に濡れた唇から力強い声を絞り出した。
「俺は信じている。彼らは必ず目を覚ます方法を見つける。俺たちはこれまで、もっと絶望的な状況すら乗り越えてきた。だから今回だって例外じゃない!だからこそ、俺がここでやるべきことは……お前という彼らの目覚めを妨げる存在を打ち倒すこと。それが、今の俺に課せられた戦う意味だ!」
イリラは耐えきれずに高らかに笑った。
「ははは!ろくに動けもしないくせに、よくもそんな大口を叩けるものだな!」
だがその嘲笑の最中、ニックスはゆっくりと歩みを進め始める。足取りは覚束ない。だがその姿は、嵐に翻弄されてもなお折れずに立ち続ける枯枝のように、ただひたすら抗い続けていた。
「小僧……」イリラは目を細め、異変を感じ取る。
「お前、私と神経系を共有したな?痛みが、少し和らいだだろう?」
「そうだ。」ニックスは血に濡れた頬を上げ、かすかな笑みを浮かべた。
「だが同時に――お前もこの痛みを味わうんだ。」
「ふん……ならばせいぜい勝ち取ってみせろ!もし敗れたなら――その命が尽きるより先に、私がこの手で終わらせてやる!」
ニックスはその言葉に、かすかに笑った。その笑みは、痛みの奥に燃える不屈の輝きを孕んでいた。
「心配するな……俺たちは必ず勝つ。俺が彼らを信じるように、彼らもまた俺を信じてくれる。……ただひとつ、誰かとの約束を破ることになるかもしれないけどな。」
次の瞬間、ニックスの左眼が紫色の炎を噴き上げ、燃え盛る。剣はふたたび強烈な光を放ち、眩く輝いた。だが今回は違っていた――幽鬼の鎧の一部が剥がれ落ち、凝縮し、もう一振りの幽冥の剣となって彼の手に収まったのだ。
ニックスは双剣を握りしめ、揺るがぬ決意を宿した瞳で前を見据える。紫焔と光が交錯するその姿は、暗黒の戦場に一筋の希望を灯した。
「――さあ、続けようじゃないか!」
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