第55話 05 俺にしかできないこと
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急速な落下の中で、エリーサの脳裏を無数の断片が駆け抜けた。
「もし、私がもう少し強ければ……。私もニックスみたいに素早く王の力を解放できたなら、こんな無力感に押し潰されることなんてなかったのに。」
胸の奥を重苦しい後悔と焦燥が圧し潰し、乱れた思考は嵐のように頭の中をかき乱す。速く、さらに重く、それはまるで彼女の魂そのものを粉砕しようとしているかのようだった。
地面に叩きつけられる刹那、エリーサは本能的に身をひねり、その衝撃を大きく殺した。
「……はぁ、私、何を言ってるんだろうね。」
苦笑いが漏れる。しかしその笑みにはわずかな苦みが混じっていた。
「そうだよ。私は彼らみたいに頭が切れるわけでもないし、あんな圧倒的な力を持っているわけでもない。だけど、私は私。こんな無意味な自己嫌悪に浸っている暇なんてないんだ。」
エリーサは顔を上げ、頭上に漂う敵影を真っ直ぐに見据える。
「だって私は、このチーム唯一の魔法使いであり、そして、この愚かで大切な仲間たちのリーダーなんだから! だったら、この幻術を終わらせて、みんなを救い出すのは私の役目だ!」
彼女は魔法杖を強く握りしめ、大きく息を吸い込んだ。
「さぁ来い——ぐだぐだ考えるのは私の性に合わない。突き抜けるまでやるだけだ!」
奔流のように溢れ出す呪力。火と水の元素が杖の上で同時に爆ぜ、灼熱と極寒が交わり合い、眩い紅と蒼の光となって放たれる。その力は渦を巻き、融合し、やがて威風堂々たる巨躯を形作った。
――紅藍将軍。
両刃の長刀を携え、重々しくも威厳ある歩みを進める。刃には炎と水流、二つの律動が脈動し、瞬間、刀尖から完璧無比の斬線が解き放たれる。轟烈の炎と奔流の水が交わり爆ぜ、空を覆う敵をすべて斬り裂いた。
「さぁ、ここからは私の舞台だ。」
エリーサの唇が自信に満ちた笑みを描き、その瞳はかつてないほどに輝いていた。
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