表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/936

第2話 夕焼け村01



激闘の果てに、ニックスの腹部にはぽっかりと大きな穴が開いていた。

鮮血が地面を濡らし、彼の視界は次第に暗くなっていく。世界がぼやけ、意識が遠のく中、靴音が静かに近づいてきた。


霞む視界の中で、一人の少女が彼の前に立つ。月光に照らされたその姿は儚げで、揺れる瞳には明らかな不安が滲んでいた。


「あなたは……誰?」


彼女の声が、夜風に紛れながらもはっきりと耳に届く。


だが、ニックスは返事をすることもできず、意識の闇へと沈んでいった——。



---


再び目覚めたとき、ニックスは温かな木の小屋の中に横たわっていた。


ぼんやりとした頭で、ゆっくりと天井を見上げる。壁は独特な木材でできており、中央には淡い青色のルーンが埋め込まれていた。光がゆらゆらと揺れ、まるで呼吸するかのように部屋を静かに照らしている。


(……ここはどこだ?)


思考を巡らせながら、ニックスは反射的に手を伸ばし、剣を探す。だが、手探りしても鞘の感触はなく、代わりに柔らかな毛布が指先を撫でた。


不安が胸をよぎる。


その時——


コツ……コツ……


外から足音が聞こえた。


瞬時に全身の神経が研ぎ澄まされる。ニックスはとっさに目を閉じ、寝ているふりをする。耳を澄ませると、低い声で誰かが話しているのが聞こえた。


(……誰だ?)


疑念を抱きながら、慎重にベッドから降りる。床板がわずかに軋む音を飲み込み、つま先で静かに歩を進めた。会話の内容を聞こうと、ドアへと近づいていく。


だが——


——バンッ!!


突然、扉が勢いよく開き、壁に叩きつけられた。


「ぐっ……!」


想定外の大音響に、思わず身体がびくりと跳ねる。腹部に鋭い痛みが走り、ニックスは呻き声を漏らした。


「あぁ、痛ぇ……!」


歯を食いしばりながら顔を上げると、ドアの向こうに立つ人物と目が合った。


それは——


あの時、彼が意識を失う直前に見た少女だった。


彼女は驚いたように目を見開き、その中には心配の色が浮かんでいた。だが、ニックスがしっかりと彼女の顔を捉える前に、再び傷口から鋭い痛みが襲い、顔をしかめる。


「この患者さんは、じっとしているのが苦手なようですね。」


少女はため息混じりに呟くと、静かに彼のもとへ歩み寄った。


ニックスは苦笑しつつも、無理に笑顔を作りながら問いかける。


「……ここはどこだ?」


少女は微笑んだ。が、それはほんの一瞬のことだった。すぐに真剣な表情に戻り、鋭い視線で彼を見据える。


「その質問に答える前に、まずあなたに聞かなくちゃいけないことがあるわ。」


「どうしてあなたは、この村の外れで倒れていたの?」


ニックスはわずかに眉をひそめる。


「それは……」


言葉を探しながら、彼は少し困惑した表情を浮かべる。


「正直に言うと、俺自身もなぜここにいるのかよく分からない。お前たちが何か知っているのか?」


彼は続けようとした——だが。


「——あなた、転生者でしょ?」


少女は鋭い声で言い放った。


一瞬、空気が張り詰める。


ニックスは反射的に彼女の顔を見つめた。


「なぜ、そう思う?」


少女は一歩前へと踏み出し、その瞳に揺るぎない確信を宿したまま、言葉を続ける。


「魔法であなたの記憶を視たのよ。」


「そこに映っていたのは……あなた自身のものではない、まったく別の"存在"だった。」


「だから、私たちはあなたが"転生者"ではないかと疑っているのよ。」


静寂が落ちる。


ルーンの光が揺らぎ、部屋の空気は一気に緊張感を孕んだ。


ニックスは息を呑み、少女を見つめる。


(——転生者? 俺が……?)


彼の中に、拭いきれない疑問と、得体の知れない不安が渦巻き始めた——。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ