第54話 最終章 極光に舞う刃
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なんて見事な──先ほどの反撃は、言葉では到底言い表せないほど鋭く、無駄がなかった。
まるで、どんな言語をもってしても完全には描き切れない一閃。
あらかじめ読まれていたのか? やれやれ……これは一体どういう感覚だろう。
苛立たしい戦闘の最中だというのに、空気が突然澄み渡り、雨上がりに塵を洗い流した朝のように、肺の奥まで沁み渡ってくる──全身が風に持ち上げられ、そのまま大空へ舞い上がってしまいそうな爽快感。
ああ……やはり今日の空気は格別に心地いいじゃないか。
碧緑の髪を持つ男は、どこかくつろいだ口調で、からかうように言葉を放つ。声もまた風に乗り、空へと溶けていった。
だが、バイスタはその言葉など歯牙にもかけない。鋭く冷えた刃のような眼差しで、ただこの戦いを終わらせることだけを考えていた。
一歩踏み出すや、彼の身体は疾風と化し、一直線に敵へと迫る。
しかし、碧髪の男は風の加速を借り、再び軽やかに身を翻す。宙を翔ける隼のような軌跡を描きながら。
次の瞬間、彼の拳が空を握りしめた──途端、バイスタの胸が締め付けられ、呼吸が奪われる。
「ほら、俺も空気の成分を操れるんだよ。さっきの爆発みたいにな。」
耳元で低く響く声。
「今、お前が吸える空気を抜き取った。……その無力感が広がってきただろう? 酸欠、目眩、視界の揺らぎ、筋肉の脱力、そして……心臓の停止だ。」
言葉と同時に、バイスタの背後で風が刃へと形を変える。鋭く、そして無音のまま、致命的な一撃が走った──
その刃は冷ややかに、容赦なくバイスタの身体を貫く。
男は軽やかに地へ降り立ち、その瞳に一片の感情も浮かべない。
胸を締め付ける痛みと窒息感が幾重にも絡みつき、四肢は見えぬ鎖で縛られたように力を失っていく。バイスタの身体は、ゆっくりと地面へと傾いだ。
「やれやれ、やっと厄介な戦いが終わったな。」碧髪の男は僅かに伸びをし、倦怠を帯びた声で呟く。
「さて……彼女の姉の方を見に行くとするか。」
その背がわずかに振り向いた、その瞬間──
「──極光斬!」
バイスタの影が、男の側背から弾け出る。握られた大剣が極光の軌跡を描き、容赦なく男の腹を裂いた。
「どうだ? 俺の演技……なかなかだっただろう?」
笑みを帯びた声が風を裂き、響き渡る。次の瞬間、碧髪の男は激しく吹き飛び、その姿は空の彼方へと消えた。
数百キロ離れた地で、凝縮された魔力が雷鳴のごとく炸裂──
巨大な衝撃雲がキノコのように天を突き、まるで核の爆ぜるような凄烈さで天地を震わせた。
そして、灰白の煙と粉塵の狭間に、なおも淡く輝く極光が残り、。
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