第54話 17 空崩の極光
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この威力——まったくもって舌を巻く。事態の複雑さは、幾重にも氷鎖で縛られていくように、ますます厄介になっていく。
碧緑の髪を持つ男はわずかに眉をひそめ、口元に怨気を帯びた苦笑を浮かべた。
「まったく……どうして毎回、最悪な厄介ごとばかりが俺のところに転がり込んでくるんだ? まるで一年中カラスに付きまとわれてるみたいじゃないか……」
周囲の空気はまるで蒸し煮されたかのように、むっとした熱と圧迫感を帯び、呼吸には細かな砂塵が混じっていた——不快極まりない。
彼は一つため息をつき、ぽつりと呟く。
「これが終わったら、絶対にゆっくり休んでやる。」
その時、大地と空の間に裂け目が生まれたかのように——眼前に全てを呑み込まんとする巨大竜巻が巻き起こった。
その高さは天を突き、高層ビルに匹敵し、底はまるで都市を貫く高速道路のように広大だ。
「まずは試してみるか——超・竜巻!」
男が低く告げた瞬間、竜巻は獣の咆哮を上げ、大地を切り裂き、滅びの気配を纏ってバイスタへと迫った。
バイスタは迫り来る風の巨獣をまっすぐに見据え、その表情に一片の揺らぎもない。
「お前たちのような存在は……やはり社会の均衡を脅かす毒瘤だ。根元から断たねばならない。」
次の瞬間、彼の身体は容赦なく風の眼へと呑み込まれた。
この規模の竜巻なら——わずか数秒で一つの町を瓦礫に変えるだろう。だが碧緑の髪の男は手を緩めない。
彼は片手を上げ、指先で空に肉眼ではほとんど見えない軌跡を描く。すると、空に純粋な風で形作られた三本の巨大な無形の針が凝り固まり、冷たく鋭い風切り音を伴って竜巻の中心へ突き刺さった。
——だが、その刹那。
風の眼の奥で、異様な律動が生まれた。
まばゆい極光が竜巻の中心で高速回転し、まるで刃のように逆流する軌道を切り拓いていく。轟音が突然調子を変え——竜巻はその逆流により、一片ずつ解体され、ほどけ、霧散していった。
「……竜巻の内部を逆方向に走って? そのまま解消してしまっただと……?」
男の瞳に初めて驚愕の色が宿る。
だが戦いは終わらない。
三本の風の針はすでにバイスタの頭部を狙い、殺気を孕んで迫る。
さらに男は再び手を上げ、指先から無数の極細の風の糸を解き放つ——それらは大地を紙のように切り裂けるほど鋭く、銀白の閃光となって四方八方からバイスタを包囲した。
しかし、バイスタはただ軽く跳ねただけで、全ての風の糸はガラスのように砕け散り、無害な気流へと消えた。
「……この力は……」
碧緑の髪の男がわずかに目を見開く。
空中で、バイスタはすでに標的を捉えていた——両手で大剣を握り、刃には極光のような輝きが流れる。
「——極光の夜!」
低く響く掛け声とともに、その剣閃は天を裂く彗星のように振り下ろされた。
無数の極光が天幕となって降り注ぎ、あらゆるものを覆い尽くす——まるでこの瞬間、蒼穹そのものが崩れ落ちるかのように。
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