第54話 13 鏡像を砕く眼
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ニックスの周囲には、殺気がまるで氷のように凝り固まり、空気そのものが冷たく張り詰めていた。
死神の大鎌を思わせる巨大な鋏が、その身を貫かんと迫った刹那――幽霊の鎧が突如として変形し、漆黒の夜を思わせる二つの巨大な手となって、その致命の一撃を無理やり受け止めた。
鋼と異質なる力が衝突した瞬間、火花が四方に散り、耳を裂くような甲高い音が響き渡る。
反動を利用し、ニックスは鋭く跳ね上がって間合いを取り、荒く息を吐きながらも冷静さを失わなかった。
「助かった、幽霊……あれがなければ、今頃俺は……」
「小僧、無駄口を叩くな!」幽霊の声は、有無を言わせぬ圧迫感を帯びて響く。
「本気を見せろ! あの薬丸があるだろう? 今すぐ飲み込め!」
ニックスの瞳が一瞬揺らぎ、低く呟く。
「言うのは簡単だ……あれは確かに一時的に魔力を引き上げるが、効力の持続は極限まで短縮されている……それに、一粒を超えれば、俺の身体は確実に崩壊する。まずは奴の弱点を見つけなければ――鏡像魔法を発動するには、必ずどこかに微細な隙があるはずだ……俺が今まで見落としてきた何かが……」
彼は長剣を握りしめた。銀色の刃が、戦場の揺らめく光を細やかに反射する。
ニックスは再び駆け出した。剣風は夕立のように激しく、しかしイリラの鏡像は不気味なまでに完全に同調して迫ってくる――敵味方の区別もなく、呼吸のリズムすらも寸分違わぬ動きで。
長剣と長剣がぶつかり合うたび、鋭い金属音が重なり合い、一曲の苛烈な金属の旋律を奏でる。火花は二人の間で絶え間なく瞬き、ニックスの肩には更なる重圧がのしかかる。彼は正面からの斬撃を受け止めるだけでなく、背後からの致命的な模倣攻撃にも常に警戒せねばならなかった。
幾度も紙一重で避け続けた代償は、浅い傷となって蓄積していく――腕には切り傷、肩口からは血が滲み、衣服の裾も無残に裂けていく。動きのリズムに、目には見えぬ僅かな鈍りが現れ始めた。
ニックスの思考は疾風のごとく巡る。
――指か? 肩か? 脚か? それとも顔のどこかの細かな変化か?
鏡像魔法を発動する直前、必ず何らかの予兆があるはずだ。
その瞬間――彼は見つけた。
一瞬の隙間に映った、あの双眸を!
「……見つけた」低く呟くと同時に、長剣を鋭く振り抜き、即座に背後からの一撃を受け止める。
予想通り――それは、直前の自分の動きを模倣した鏡像の攻撃だった。
剣が空中で鋭い弧を描き、金属音を響かせる中、ニックスは確信する。
「――眼だ……!」
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