第8話09暗闇の中で赤い目が光った
視点はフィードとニックスへと移る。
「そういえば、さっきサインするのを忘れてたね。」
フィードがふと立ち止まり、掲示板に貼られていたクエストのことを思い出した。
「サインをしないと、このクエストがすでに受けられていることがギルド側に伝わらないんだ。でも、もうすぐ目的地に到着するし……終わったら、戻ってスタッフに報告すればいいか。」
「確かに。魔物の死体を証拠として持ち帰れば、それで問題ないはずだ。」
ニックスは頷きながら、少し反省したように言った。
「でも、今後はこういう基本的なことにも、もっと注意しないといけないね。」
「その通りだね。」
二人は何気ない会話を交わしながらも、自分たちが引き受けたクエストの裏に潜む危険にはまだ気づいていなかった。
それが、ただの魔物討伐ではなく——命を脅かす恐ろしい罠かもしれないということを。
---
「そういえば、ニックス。」
歩きながら、フィードがふと気になったように口を開く。
「前に君が話してくれた火炎精霊って、確か黄金三段のレベルだったよね? でも、その分身って、一体どのくらいの強さなんだ?」
ニックスは少し考え込みながら答えた。
「それは、僕にも分からないな。でも……僕の村長は、本当にすごい人なんだ。」
彼の瞳には、どこか尊敬の色が滲んでいた。
「火炎精霊がさらに進化して『火炎精霊神』になると、その戦闘能力はダイヤモンド級にも匹敵すると思う。」
「ダイヤモンド級……!」
フィードは目を見開いた。それは、彼らのような青桐級の冒険者にとっては、まるで別次元の存在だ。
「そんなの……まったく想像もつかないな。」
「でも、僕たちなら——」
ニックスは少し笑って、フィードの肩を軽く叩いた。
「いつか、そこにたどり着けるさ。」
そう言って、二人は互いに笑い合いながら、軽快な足取りで山道を進んでいった。
やがて、険しい森を抜けた先に、ぽっかりと口を開けた巨大な洞窟が姿を現す。
---
「結構……大きな洞窟だね。」
ニックスはその圧倒的なスケールに、思わず息を呑んだ。岩肌はゴツゴツと荒々しく、入り口付近はひんやりとした冷気に包まれている。
まるで、この先に何か恐ろしいものが潜んでいるかのように——。
「……念のために、火把を投げ込んでみよう。」
フィードは慎重に腰のポーチから火把を取り出し、洞窟の奥へ向かって思い切り放り投げた。
「——ッ!」
炎が宙を舞い、洞窟の内部をぼんやりと照らし出す。




