第54話 06 刹那の斬撃
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速度は確かに驚異的だった。だが、先ほどの一撃は思ったほど致命的な威力はなく、鋭さよりもその速さこそが脅威だった。あの武器……間違いない、裁縫の神具のような巨大なハサミの刃だ。ならば、この程度の速さならまだ追える。
ニックスの視線は、彼女の足運びを鋭く追い続ける。次の瞬間、相手は影の中から飛び出す矢のように一気に踏み込み、こちらへ殺到してきた。ニックスの瞳が細まり、躊躇なく「王」のモードを発動。幽霊の鎧がその前に半透明の防御障壁を形成し、不気味な紫の光を帯びる。同時に、彼女は剣を反転させて後方に振り抜き、刃が鋭い弧を描く――予想通り、イリラの攻撃を正面から迎え撃った。
この勢いのまま幽霊化し、相手の防御をすり抜け内部から致命傷を与える――はずだった。だが、ニックスは突然動きを止め、後方へと退いた。脳裏をかすめたのは危険な予感。そうだ、この組織の者たちは幽霊化攻撃を無効化する特殊な術を持っている可能性がある。
イリラは薄く笑みを浮かべ、獲物を追い詰めた猟師のような眼差しを向けた。
「ほう? 雑魚のくせに意外と敏いじゃない。……今、魔力空間変化法に気づいたのか? これはお前を狩るために仕掛けた罠だよ。」
彼女は優雅でありながら危険な仕草で、地面に落ちていた半分のハサミの刃を拾い上げた。
「何の話? まさか……幽霊化のこと?」
その声音には、嘲笑とも挑発ともつかぬ色が混じる。ニックスは内心で息を呑む――やはり私の幽霊化は完全に見破られ、しかも正式な名称まで知られている。そして、彼らはそれを防ぎ、攻撃する手段を持っている。
「でもさ……あんた、魔力感知がやけに鈍いよね。いや、専門家レベルじゃないだろ?」
言葉が終わるより早く、刀光が閃き、冷たい刃が蛇のようにニックスの首筋を狙った。だが幽霊の鎧が即座に受け止め、後頚部に浅い切り傷が走っただけで済んだ。
「ガキ、俺様がいなきゃ今頃死んでたぞ!」幽霊の声が耳元で低く響く。
「わかってる、ありがと……相棒。」ニックスは口元をわずかに上げて応えた。
イリラの瞳が鋭く光り、ハサミの刃が稲妻のようにニックスの両目を狙う。ニックスは素早く身をひねり、手にした紫の「半天狗」面を顔にかぶせる。それは幽霊の鎧と一体化し、紫色の紋様が生き物のように全身を走った。
「――来い!」
一方その頃、戦場の別の場所では、背の高い男がじっと腰を下ろしていた。深い栗色の長髪の間に、金と緑のメッシュが光の加減でちらつく。彼は息を吐き、遠くを見やる。
「まだ戻らない……? まさか、何かあったのか? ……誰かが覚醒している?」
隣にいた少女は首を振る。
「たとえ誰かが目を覚ましても、姉さまなら必ず片づけられます。だって姉さまは世界一強くて、一番可愛くて、一番賢くて、一番――」
「はいはい、姉バカなのはよく分かった。」男は苦笑して遮った。
「ふふ、仲がいいな……ずっとそのままでいろよ。」
「うん! 私と姉さまはずっと一緒。誰にも引き裂けません。」少女は即答する。
男は軽く頷きながらも、腰を上げた。
「……でも、やっぱり様子を見に行くか。隊長の方もそろそろ終わるだろう。あと二、三時間ってところか。」
その瞬間――草むらを切り裂くように、白い影が飛び出した。息を飲む間もない速さ。
――「隙を見つけた! あの女を気絶させれば、幻術は解ける!」
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