第54話 03 虚構に囚われた戦場
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時は再び戦場へと戻る。
荒涼たる夜の闇の中、敵の襲撃はまるで毒蛇のように静かに忍び寄ってくる。ニックスは部隊と共に前進し、湿った冷たい泥土を踏みしめたその瞬間、胸の奥に馴染み深い鼓動が込み上げた――それは、命を賭した戦いの最中、必ず訪れる感覚。心臓の鼓動と戦場の鼓動が一つに溶け合うような錯覚。
――まさか……第三段階が発動するのか?
ニックスは胸中で呟き、瞳をわずかに鋭くした。
その時、騎士団の先鋒が突如として足を止めた。夜幕の中を潜む黒い影を捉えたのだ。空気が一気に張り詰め、緊張は極限にまで達する。全員が瞬時に戦闘態勢を整え、戦意が津波のように押し寄せた。
「――禁縛の魔法!」
低く響く詠唱が夜空を切り裂く。高空は一瞬にして深い蒼の魔力に染まり、巨大で冷ややかな三つの魔力の檻が天より降り立つ。重々しい金属音と共に、敵はその中に閉じ込められた。反応する暇もなく、後方の魔法使いたちが一斉に杖を掲げる。足元から燃え広がるように魔法陣が展開した。
次の瞬間――無数の橙赤色の光柱が天空から注ぎ込まれた。天蓋が裂け、烈火と光が流星雨のように降り注ぐ。衝撃波が土と灰を狂ったように巻き上げ、灼熱の熱風が空気を引き裂き、耳元では怒号のような轟音が響き渡る。その光景は、目に見えぬ爆撃機が低空を唸りながら飛び、無慈悲に爆撃を浴びせるかのようだった。
後方の剣士たちも突進する。刀身は炎を映し、夜闇を裂く稲妻のように煌めいた。重装兵は巨大な盾を高く掲げ、まるで銅壁鉄壁のごとく前進する。騎兵団の白馬は戦場を駆け、蹄音は雷鳴のごとく響き、風を裂く銀白の残光となって突撃し、その一撃一撃は万鈞の重みを持って敵陣を粉砕した。
砲撃は四分間も続き、やがて硝煙がゆるやかに晴れ、前方の影が完全に動きを止めた時、ようやく全員が武器を下ろした。
ニックスは胸の内で息を呑む――この途切れぬ、相手に一息もつかせぬ攻めは、まさに戦慄すべきものだ。
作戦前、バイスタの声が耳に残っていた――持久戦は不可能、初撃から全力で叩け。これは奇襲であり、手加減すれば逆襲を受ける。もし敵の平均戦力がバイスタ並みなら……それは破滅だ。
捕虜は全員拘束され、遠くの空には極光が瞬く――バイスタの合図だ。彼の側も無事任務を果たしたらしい。騎士団は迷わず援軍へ向かう。
だが、その道中――
ニックスの足がふと止まった。あの奇妙で、不穏な感覚が再び押し寄せる。空気が見えぬ手にかき乱され、空間が押し潰され捻じ曲げられたような圧迫感が胸を締め付けた。
眉をひそめ、本能で異常を察知する。その刹那――
耳元で、星の切迫した声が響いた。
ニックスの心臓が跳ね、慌てて辺りを見渡す――だが、星の姿はどこにもない。
冷たい戦慄が背筋を駆け上がる。彼は思い出す――この恐ろしいほど馴染み深い感覚を。現実味を欠いた圧迫感、まるで同じ日を何度も繰り返し閉じ込められているかのような感覚。
――間違いない……ここは、現実じゃない!
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