第54話 01 出発前の別れ
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騎士団は迅速かつ整然と進軍を続けていた。進路上にはいくつかの魔物が現れたが、そのすべては一瞬にして蹴散らされた。ニックスは、今回の騎士団がこれまでになく精鋭で構成されていることを見て取り、任務への自信をより強めていた。
二日と経たぬうちに、彼らは水晶湖の周辺に密かに布陣を完了した。水晶湖の周囲には魔力の乱れが漂い、そのせいで敵の気配を探知できないのは当然ながら、敵側からもこちらの動きは感知されにくい。
作戦計画の説明が行われる間、ニックスはバイスタの隣で静かに耳を傾けていた。彼の手首には一本の細い糸が巻きつけられている。それは、作戦開始前から彼が密かに考えていた星への対策の一環だった。
「――あの子を、どこか安全な空間に閉じ込めてしまえばいい」
それがニックスの導き出した、極めてシンプルだが確実な答えだった。
王都にいたあの日、幽霊は彼に向かってこう言った。
「でも、もしその空間の中で星星が迷子になったらどうするの? 今のあんたができるのは、その空間に入口を作ることだけ。中にもう一つ空間を開いたら、どこに繋がるかなんて分からないでしょ? 前にも、すごく遠い場所に飛ばされたって言ってたじゃない」
ニックスが返すと、幽霊は少し考えたように言った。
「子供が迷子にならないための道具があるの。普通は手首につけるんだけど、軽くタップすれば、微かに光る糸が現れて、相手の位置をすぐに探知できるのよ」
その言葉を聞いたニックスの顔に驚きの表情が浮かんだ。
「な、なんだって! そんな便利なものがあるのか!? 名前は? どこで買えるんだ!?」
すると、幽霊は真顔で一言。
「……私に聞かないで。知らないわよ」
「おいおい、なんでそんなに堂々と答えられるんだよ!? 俺にとってあいつは一番大事な存在だぞ!」
そんなやり取りもありつつ、最終的にはニックスはなんとかその道具を探し出すことに成功した。そして出発の前夜、彼は食糧や「面白そう」と感じたありとあらゆる物資を、空間の中へと詰め込んだのだった。
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