第53話 最終章 銀白の風が吹く時
広場は沈黙に包まれ、風にたなびく旗の音だけが耳に残った。
「諸君も知っての通り、あの魔法石がもたらす脅威は計り知れぬ。それが敵の手に落ちれば、我が王国の滅亡など……時間の問題に過ぎぬ。」
その視線は鋭く、魂を貫くかのようだった。
「では、我々はそれを守るために――どうすべきか?」
次の瞬間、統一された怒号が大地を揺るがす。
「――魔法石を奪い返せ!!」
騎士たちの叫びは津波のように大地を覆い尽くした。
ニックスは騎士団の城楼の上に立ち、風に揺れる栗色の髪がふわりと舞う。
彼はその光景を見下ろし、目に感慨とわずかな笑みを浮かべた。
「……壮観だな。」彼はつぶやいた。
「こんな場面、今までは映画でしか見たことなかったよ。」
細めた目に陽光が差し、彼の口元に自信に満ちた笑みが広がる。
「さあ――皆、準備はできているか?」
腕を高く掲げ、その声は熱く戦意に満ちていた。
「準備が整ったなら――王国のために戦おう!!」
地上の万騎が一斉に咆哮し、まるで山を砕き、大地を震わせるかのように。
「――王国のために戦え!!!」
騎士団の全員が、一斉に剣を天高く掲げた。朝日に煌めくその刀身は、まるで一面の銀の波となって空を切り裂く。鋼鉄の甲冑がこすれ合う音が、部隊の中を静かに、しかし確実に響き渡り、騎兵たちの乗る軍馬の蹄が、乾いた石畳を重々しく叩きつけていた。重装兵たちの盾がぶつかる金属音も混ざり合い、まるで出陣を告げる交響曲のように、大地に鳴り響いていた。
全軍が万全の準備を整えたその瞬間――
バイスターが一歩、前へと進み出る。風になびく銀白のマントの向こう、彼の背後には、整然と並ぶ数千の戦士たちの姿があった。
その眼差しはまっすぐに前方を捉え、力強く言い放つ。
「今こそ――勝利へ向けて出発する!」
その号令が響いた刹那、騎士団はまるで解き放たれた濁流のように、本部から飛び出した。
怒涛の如き突撃――
数千の足音が一斉に地を踏み鳴らし、鉄の嵐となって大地を揺らす。その振動はまるで小さな地震のように、世界を震わせ、空気を裂き、戦いの幕開けを告げていた。




