第53話 15 反撃の狼煙が上がる
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数日後の王都──重々しい議題が陰のように街を覆い始めていた。
その日の夜明け、空は淡い藍に染まりきらめき、霧が街角に漂うなか、王都中心部にそびえる騎士団本部には、いつにも増して厳粛な空気が漂っていた。
騎士団の兵たちは整然と一列に並び、その装いは銀色の甲冑に身を包み、真剣な面持ちで長剣を掲げている。朝陽が剣身に反射し、まるで光の回廊を形作るかのようだ。
やがて、王の乗った黄金の馬車がゆっくりと正門前に到着した。王が車輪から足を下ろした瞬間、場内に轟く声──
「陛下、御光臨、謹んでお迎え申し上げます!」
その声はまるで大地を震わすかのように響き渡り、騎士たちがいっせいに剣を天へ掲げると、交差する刃が空に光の隧道を築いた。まるで王座への導きの通路のように。
王の瞳は鋭く、表情は凛として威厳に満ちている。歩みは重厚かつ尊厳あり、その足元の延長線上には、既に跪いている一人の騎士──バイストの姿があった。彼は深々と頭を下げ、ひざまずいて礼を捧げる。
「陛下ご臨席とは、まさかの光栄……」
その言葉に、王は軽く口許を上げてひとつ笑みを含んだ。
「……歓迎されないってわけかね?」
バイスタはすぐに頭を下げて応えた。
「いやいや、それはまさに誤りでございます。どうかお進みくださいませ、陛下。」
騎士団本部──その建築は神聖なる聖堂を思わせる純白の外壁に、金色の意匠が煌めいている。正門をくぐると広がる大堂は数丈の高さがあり、その塔の頂には重厚な鐘楼がそびえ、荘厳な雰囲気を漂わせていた。
門の左右には歴代団長の騎士像が整列し、まるで今もそこに魂が宿っているかのような佇まいだ。視線を向ければ、壁面に施された精緻な石彫は王国と団の歴史を語り、机一つ、門のアーチすらも厳密に設計され、寸分の狂いも許さない精密さが感じられる。
二人は奥にある秘密の会議室へと足を運んだ。
王が重厚な椅子に腰かけると、その冷えた視線をバイスタに向けた。
「覚えているだろう、何故私がここに来たのか。副隊長は今、どこにいるんだ?」
バイスタは深く頷き、背筋をかたくしながら答える。
「陛下のご意図は察しております。副隊長は既に小隊を率いて出立し、魔法石と“創世”組織の手がかりを追っております。」
彼は言葉を止め、王の顔を見据えた。
「だが――陛下がここに戻られたのは、ただ進捗を問うためではなく、別に目的があるのではありませんか?」
王は静かに頷くと、深い冷意を帯びた声で言った。
「確かに本日は、皆の進捗状況を聞くためだけではない。決定的な報告をしに来たのだ。“創世”組織の本拠地と動向を、我々は既に把握している。」
その言葉と共に、室内の空気が重く引き締まるような緊迫感に包まれた。
「準備のできる兵力はすべて動員済み。あとは許可を受け次第、一斉に行動に移すだけだ。」
王は静かに扉の方を見つめ、微かな笑みを浮かべた。
「そうだ、紹介し忘れるところだったな。情報提供者を呼べ。」
厚重な扉がゆっくり開き、一筋の光が差し込むと、そこには見慣れた姿があった。
影から現れたのは髪をなびかせ、凜とした佇まいの青年だった。歩幅は一定で、表情には迷いなど微塵もない。
「――私です、ニックスにございます。」
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