第53話 14 もう危険の中にはいない
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翌朝、淡い朝焼けが空の端を染め、霧がほんのりと残る静かな時間。ニックスは他の四人と再び顔を合わせた。
「おや、フィード、かなり回復してるみたいだな。」
ニックスは元気いっぱいに立つフェードを見て、安心したように微笑んだ。
「うん、おかげさまでね。思ったより深刻なケガじゃなくて済んだよ。」
フィードはまだ包帯で保護された腕を軽く叩きながら言った。「これも全部、村長さんのおかげ……いなかったら、ホントにヤバかったからな。」
ニックスは笑顔で頷きかけたが、その瞬間、フェードの体から漂う異様なエネルギーの揺らぎに気づいた。
「おい、待てよ……お前、王の覚醒モードも出てるのか?」
「おう、ついにだな。今俺たち覚醒済みは四人中三人だよ。あとはお前とシャーだけだな。」 彼は自慢げに顎を上げた。
「うぅ……なんで私はまだ覚醒できてないのかな?」
エリーサは地面を軽く蹴りながら、不満げに言う。目には焦りと好奇が浮かんでいた。「お前らっていつも危機の瞬間、覚醒してるじゃん?だったら私も――手足縛って湖に飛び込めば“バチンッ”て覚醒するかも!」
「ちょっ、それはさすがに……姉ちゃんすぐに死んじゃうよ!」
シャーは慌てて反対した。
「一緒に試せばいいじゃん?もしかして覚醒できるかもよ?」
エリーサはいたずらっぽく提案した。
「う、うーん……やっぱり無理。実力が一定を超えたら自然に来るもんだって思うんだ。」シャーは慌てて手を振りながら、「それに、姉ちゃんの頭の回転じゃ、覚醒は夢のまた夢だよ」と続けた。
その言葉尻に合わせて――予想通り、強烈な音とともにパンチがシャーの頭を直撃した。
「もう、いい加減にしな!――てか、ちゃんと話聞けよな」
ニックスの口調が急に真剣になり、瞳に冷たい光が灯った。「俺、重大な計画を思いついたんだ」
その一言が落ちると同時に、空気が一瞬止まったような静けさが場を満たした。
四人は呆然とニックスを見つめ、その口から次の言葉を待った。
「……お前、本当に…あのとんでもなく強い連中に、自分たちで近づくつもりか?」
フィードが最初に反応し、驚きと疑念を交えて問いかける。
「彼らの目的は、“魔法石”を魔力に変換すること…だと?」
エリーサは目を見開き、口を開けて息を呑んだ。「しかもその媒介が星……!?初耳すぎる!」
「でも一番の問題は、この話を国騎士団にどう説得するかじゃないか…」
シャーは眉間に皺を寄せ、腕を組んで思案する。「“世界最強の男”バイストを動かすなんて、簡単じゃないぞ」
ニックスは深く頷き、表情を一段と引き締めた。
「分かってる……ヤバいくらい夢物語に聞こえるかもしれない。でも、今動かないと…もし彼らが魔法石を手に入れたら、あるいは……また星を襲ってきたら…」
そう言いかけたところで、言葉が途切れ、彼の視線は無意識に星へと向かった。
星は彼の背後で体を小さくし、静かに話を聞いている。指先がニックスの服の裾をぎゅっと握りしめていた。
「俺は…今のままじゃ、君を守りきれないんだ」
ニックスはゆっくり拳を握り、少し震える声で続けた。「だから、まだ敵に気づかれていない今こそ…先手を打つしかない」
その言葉が届くや否や、星は顔を上げ、瞳に複雑な光が宿った。
「夜……もし本当に君がそう決意しているなら、私、絶対に君を支える」
その声はかすかだが、これまでにない真剣さと信頼が籠っていた。「私は……君なら成功できるって信じている。でも、また君が…取り返しのつかない傷を負うことになったら……前の魔力の神経異常みたいに……今回、もし運が悪かったら…」
言いかけた瞬間、ニックスはそっと星の髪を撫でた。
その仕草は、まるで戦略を語り合う瞬間ではなく、小さな娘におとぎ話を聞かせるかのように優しかった。
「大丈夫だよ」
彼は柔らかな笑みを浮かべ、そっと囁いた。「俺は死なない。幸運な男だしね。それに…君がいつも危険に晒されるなんて、絶対に許せないんだ」




