第53話 13 はい!
「お前が気を失う直前、最後の攻撃を放ったときに、あいつの体に“微精霊”のエネルギーをこっそり仕込んでおいたんだ。それが今も、やつの周りをふわふわと漂ってる。」
その時、空中にふわりと浮かぶ小さなオレンジ色の光の塊が現れた。微精霊だ。彼は小さく頷き、澄んだ声で言った。
「うん、“仲間”のエネルギーって自然だからね。敵に気づかれることなんて、まずないよ。」
ニックスはそれを聞いて、ぱあっと顔を輝かせ、久しぶりに本気の笑みを浮かべた。
「じゃあ……やつらの行方を追えるってことか?仲間を呼んで、不意打ちでもかませば……倒せる可能性がある!」
彼の脳内には、瞬く間に作戦の青写真が描かれていった。思考が火花のように高速で回転する。
――数時間後。
部屋に夕暮れの柔らかな光が差し込む。あたたかさの中に、どこか落ち着いた重みがあった。
扉がゆっくり開かれ、村長が姿を現す。年老いたその身体はやや丸まりながらも、一歩一歩が確かな重みを持っていた。
「少年、こんばんは。」
その声は低く、落ち着いた調子で、目の奥には探るような光がある。
「緊張せんでもいい。わしが来たのは、お前を責めるためじゃない。」
村長は近くの椅子に腰を下ろし、白髪のひげを撫でながら、静かに口を開いた。
「……あの少女のこと、だいたい察しはついておるよ。わしもかつては王国の中枢にいた人間だからな。“魔法石”に関わる計画の話も聞いたことがある。」
「今日はひとつ、提案に来たんだ。あの少女を、村に残してはいかんか?ここにいれば、少しは安全だろう。」
その言葉を聞いたニックスは、顔を引き締め、深くうつむいた。
「……すみません。この村に、たくさんの迷惑をかけてしまって……まさか、こんなことになるなんて思ってもみませんでした。」
彼は言葉を詰まらせながら、深く頭を下げた。
「でも……そのお気持ちは、本当にありがとうございます。」
彼は顔を上げ、その瞳に確かな意志を込めて言った。
「星は……一緒に旅を続けたいって、自分の意思で言ってくれました。」
その言葉を聞いた村長は、わずかに目を見開いた後、優しく、どこか懐かしそうに微笑んだ。
「そうか……ならば、しっかり守ってやるんじゃぞ。」
「はい!」
ニックスは力強く頷いた。揺るぎない決意が、胸の奥に静かに燃えていた。




