第53話 10 嵐が過ぎ去った今、私たちはどこへ進めばいいのか
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ジュニオは落ち着いた眼差しでニックスたちを見つめ、静かだが否定の余地のない威圧感をにじませながら口を開いた。
「君たちは皆、“創世”を見届けた者たち……そうだな、幽霊剣士よ。その少女はなぜ、いつもお前の傍にいる?」
不意に投げかけられた問いに、ニックスはすぐに顔を上げ、その瞳は鋭く刃のように光る。不快さと決意を帯びた声で答えた。
「それがあんたに何の関係がある?彼女は俺の、大切な仲間であり、かけがえのない友人……そして、俺の妹だ。」
その言葉を聞いたフィードは雷に打たれたように目を見開き、声を震わせながら言った。
「血縁関係があるの!? そんなの聞いたことなかったけど!?ニックスに妹がいるなんて……どうやって知ったの?」
フィードの問いかけに、ニックスは困ったようにため息をつき、額に手をやりながら肩をすくめた。
「……頼むから、俺がカッコつけてる時に茶々を入れるのはやめてくれ。せっかくのいい雰囲気が台無しだよ。」
ジュニオはそれを聞いてふっと笑みを浮かべ、どこか茶化すように言った。
「なるほどね。どうりであの小さな少女が、ずっと君の背後に隠れるように立っていたわけだ。」
その一言に、ニックスは一瞬で表情を変え、電撃が走るように顔を上げた。
「まさか……お前、星が見えるのか!?」
心の奥で警鐘が鳴り響く。これまでの実験で、星が隠密状態に入れば、どれだけ精密な魔力探知をもってしても存在を察知することは不可能だった。ましてや、肉眼で捉えるなど……
――この男、どれほどの強さを秘めているんだ……?
思考が渦巻く中、ジュニオがゆっくりと一歩踏み出す。その視線は星へと向けられ、魂の奥底まで貫くような冷たい光を放っていた。
そして次の瞬間、その瞳に宿る鋭利な殺意が空気を裂き、周囲の温度が一気に冷え込む。
ニックスは即座に反応した。ほぼ反射的に地を蹴り、弾丸のように駆け出し、剣を抜きざまに敵の喉元へと一閃を放った――!
しかし、次の瞬間。
すべてがまるで幻だったかのように崩れ去った。
何の予兆もなく、敵の動きすら視認できぬまま、ニックスは地面へと叩きつけられた。
土煙が舞い上がり、頬に湿った土が触れる。鼻腔には草と土の匂いが混じった香りが入り込む。
「たった一瞬で……地に叩き落とされたのか……?」
意識が朦朧としながらも、歯を食いしばり、ジュニオの声を聞く。まるで些細な出来事でも語るかのような、冷静な声だった。
「勇気があるのは悪くない。そして、その戦い方……初めて見るな。魔物に自分の身体の一部を預けるとは、なかなか興味深い。だが……そんな弱い魔物に任せるとは、軽率すぎるぞ。」
言葉と同時に、闇の中から刃のように鋭利な幽霊の翼が音を裂いてジュニオの胸へと突き刺さる――
しかし彼は、まるで手遊びのように片手を上げ、その指先だけで致命の一撃をあっさりと止めてみせた。
「ふざけるな!テメェを絶対ぶっ殺してやる!オレ様を“弱い”だとぉ!?」
ニックスは怒りと屈辱を込めて叫んだが、その返答は――
わずかな指の動き。それだけだった。表情さえ、微塵も変えずに。
次の瞬間、視界が真っ暗になり、ニックスの意識は凧糸が切れたように闇の中へと落ちていった――。
……
再び目覚めた時、空気には微かに甘く優しい香りが漂い、先ほどまでの草と土の匂いは跡形もなかった。
代わりに鼻をくすぐったのは、日差しで暖められた木の香り。そして周囲の壁は温かみのある木材で造られ、淡い光を放つ小さな発光石がはめ込まれている。
まるで眠る者を優しく包み込む、静かな夢の世界のようだった。
「まったく、前にあんたがこのベッドに寝かされたときは……お腹にぽっかり穴が空いてた時だったわね。」
モコの声が、どこか懐かしさを含んで耳元に届いた。
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