第53話 06 氷塊のように砕け散っ
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エリーサは瓦礫の中をかき分け、ついに倒れて意識を失っているニックスを見つけた。彼は静かに地面に横たわり、顔色は青白く、呼吸はかすかで、まるでこの混沌とした空気の中に溶けてしまいそうだった。
「これはまずいわね……」
エリーサはしゃがみこみ、丁寧に彼の身体を調べる。
「骨に軽いひびが入ってる。すぐに治療しないと後に響くわ。」
そう呟くと同時に、彼女の両手にはやわらかな緑の光が灯り、癒しの魔法が静かに流れ出す。それはまるで春の朝露が枯れた草花に命を与えるようだった。
そのとき、不意に耳元で焦った声が響いた。
「エリーサお姉ちゃん! 夜は大丈夫!? さっき倒れてて、すごくひどい怪我をしてたみたい……」
顔を上げると、そこには心配そうな顔をした星が立っていた。その顔を見て、エリサはようやく安堵の息をついた。
「大丈夫よ。骨折はあるけど、内臓までは傷ついていないわ。癒しの魔法で回復できる程度よ。ただ、しばらくは戦えないわね。残りは……フィードたちに託すしかない。」
一方その頃、フィードたちは村長と並び立ち、眼前のエレメントを鋭い視線で見据えていた。誰一人油断する様子はなく、周囲には緊張感が張り詰めていた。
村長が一歩前に踏み出した瞬間、周囲の空気が震え、冷気が一気に吹きつけた。気温が急激に下がり、草地には白い霜が降りる。空中には細かな雪が舞い、視界が霞んでゆく。
エレメントは静かに立ち、三つの属性を身体の周囲に浮遊させる。水、炎、雷――それらが彼を取り囲み、どこからの攻撃にも即座に対応できるよう備えていた。
「吹雪・剛風!」
村長が掌を天にかざすと、空気が彼の手元に凝縮し、小さな暴風が生まれる。冷たく鋭い風が渦を巻き、白銀の球体となって唸りをあげる。
そして次の瞬間、それは音を立てて発射された。
エレメントはすぐにその風の音に反応し、防御姿勢をとる。だがその直後、暴風は予想を裏切る急旋回を見せ、方向を変えて夏の方へと飛んでいった。
「俺じゃない……!?」
その瞬間、彼は気づいた。攻撃の標的は自分ではない。誰かを助けるための一撃だったのだ。
阻止しようと咄嗟に火球を放つが、暴風の速度はあまりにも早かった。
その頃、シャーは水の竜と激しく戦っていた。もともとマグマを使って戦っていたが通じず、今度はスピードに切り替え、素早い「疾爪ウサギ」の姿となって竜の体を切り刻む。だが、どれほどの攻撃も、竜の身体に深い傷を与えることはできなかった。
そのときだった。冷たい風が彼の背後から吹き抜けた。
次の瞬間、猛吹雪が彼を覆い尽くした――が、不思議なことに凍りついたのは彼ではなく、目の前の水竜だった。
「……今だ!」
シャーの目が鋭く輝く。これが唯一の好機と察した彼は、すぐに「巨兎」へと変身し、巨大な拳を振り下ろす。
一撃。氷の竜が砕け、氷片となって空へ舞い、地面に散った。それはまるで星々が砕けて降り注ぐような、静かで美しい終幕だった。
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