第53話 04 今夜の風は、ひとひらの雪を運んでいた
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フィードの拳が鋭くエレメントの身体に命中した。その一撃はまるで流星が大地を砕くかのような破壊力を持っていた——だが、エレメントの身を覆う防御膜がその一撃を受け止め、炸裂音と共に衝撃を拡散させた。
反撃に転じようとしたエレメントは、突然、体が動かないことに気づいた。
「……どういうことだ!?」
彼が足元に目をやると、両足首が分厚い氷に完全に封じ込められていた。冷気は大地からじわじわと広がり、空気すら凍てつくような感覚をもたらした。
——気温が急激に下がっていく。
「援軍……か?」その疑念が脳裏をかすめた瞬間、どこか遠くから年老いたが凛とした声が響いた。
「——氷山。」
次の瞬間、ふわりと一片の雪が彼の背に舞い落ちた。直後、周囲の空間が音もなく凍結を始め、冷気が四方から殺到する。氷霜が彼の体を容赦なく包み込み、見る間に巨大な氷の塊が形成されていく。数秒のうちに、彼はまるで彫像のように、巨大な氷山の中心に閉じ込められていた。
その様子を見届けたフィードは、すぐに背後を振り返った。
そこに現れたのは、銀髪の老魔導士だった。彼はゆったりと歩み寄りながら、穏やかに言った。
「遅れてすまなかったな……やはりこの歳になると足が鈍くなる。しかし、もう安心していい。」
「五属性を近接戦闘で操る魔法使いなど、久しぶりに見たが……問題ない。」
老魔導士は鋭く観察するように前方を見つめ、口調を変えた。
「わしの氷魔法は、属性同士の伝達を遮断できる。奴の防御膜も、それで無効化できるはずだ。今なら、ダメージを与えられるだろう。」
「わしが隙を作る。お前はその瞬間を狙って、決定打を叩き込め。」
そして彼は静かに付け加えた。
「ニックスは、エリサという娘に治療を頼んでいる。村人たちも、ナイトに任せてすでに避難させた。」
フィードは彼の言葉を聞きながら、老村長を見つめた。その目に映ったのは、戦場での卓越した判断力と、瞬時に状況を見抜く鋭い洞察だった。
——その時、氷山に一筋のひびが走る音が響いた。
ピキィッ——。
魔力に包まれた両手が氷を打ち砕き、次の瞬間、爆発的な魔力が解放される。凄まじい衝撃が氷山を四散させ、無数の氷片が空に舞い上がった。
霧の中から姿を現したエレメントは、全身から膨大な魔力を放ちながら、にやりと笑った。
「氷魔法……実に珍しいな。」
「この王国で、その魔法をここまで使いこなせるのは、確か一人しかいなかったはずだ。」
彼の視線が老魔導士に突き刺さる。
「まさか、こんな辺境の村に……あの“偉大なる存在”が村長として隠れていたとはな。どうだ? 元・王都最強の魔法使いよ。」
老魔導士は静かに笑い、戦闘の構えをとった。その表情は穏やかでありながら、確かな覚悟を内に秘めていた。
「昔の名など、今となっては錆びついた肩書きにすぎん。」
「今のわしは、ただの村長だよ。」
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