第53話 01 拳を振るう、その意味
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たしか、前にもこんなことがあった気がする。うん、小学二年生の時だった。あの頃の僕は、みんなと遊ぶのがあまり好きじゃなかった。
学校の男子たちは、成績の良いグループと悪いグループに分かれていて、僕みたいに成績が特別良くもなく、悪くもない中途半端な存在は、どっちにも気を遣っていた。
でも、いくら気を遣っても結局は嫌われて、ずっと一人で生きてきたんだ。
その日、クラスに転校生が来た。ニックス……ああ、思い出したよ、ニックスが初めて教室に来た日のこと。
「みなさん、こんにちは。ぼくの名前はニクスです。これからよろしくお願いしますね!」
先生に案内され、ニックスは僕の隣の席になった。
「やあ、こんにちは!君の名前はなんていうの?」
ニックスは明るく話しかけてくれた。
そう、彼は僕の“初めての友達”だった。その後もずっと一緒に遊んで、仲良くなって……。
でも、ある日。
成績の悪いグループの連中が僕のところに来て、「成績の良い連中をやりに行こうぜ」って言ってきた。
僕は断ったけど、「見るだけならいいだろ?」って言われて、つい一緒にその場に行ってしまった。
「やれやれやれ!」
気がつけば、成績の良い子たちと悪い子たちが一緒になって、僕をボコボコにしていた。
そう、あれは罠だったんだ。僕は何も知らずに踏み込んで、殴られて、蹴られて……。
でも、最後に僕を助けてくれたのも、ニクスだった。彼は、本当に何度も僕を救ってくれたんだ。
僕はニックスのように、何をやっても上手くこなせるような才能もない。
シャーのように頭が良くて、将来はきっと立派な仕事に就けるという確信もない。
エリーサみたいに、理想を持っていて、どんな困難にも立ち向かう強さもない。
僕だけが、何もできないまま、ここにいるような気がしてた。
倒れているニックスを見て、ふと思い出した。
昔、彼が僕を助けた日、あのときに言ってくれた言葉。
「人は誰もが特別なんだ。得意なこともあれば、苦手なこともある。
でも、それがあるからこそ、個性になる。欠点があるから、長所が輝く。
今日、僕がフィードを守ったように、きっといつか、僕にもフィードが必要になる日が来る。そう信じてる。」
……そうだ、今がその“時”なんだ。
僕の価値を、果たすべき瞬間なんだ!
エレメントは立ち上がった僕を見て、苛立ったように叫んだ。
「この野郎……じゃあ今度こそ立てなくしてやるよ!」
その拳が、フィードの胸に突き刺さる。
鋭く、ガラスが砕けるような音が響いた。
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