第52話 最終章 同じ場面で、同じように無力だった
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なかなかの戦術だった。
土塊でできた森林──突如として大地の下から、次々と無数の樹木がせり上がる。土の魔力によって創り出されたものだ。ニクスは何が起きたのか理解する間もなく、突如として吹き飛ばされた。
「四重元素魔法か……まさか、ここまでとはな」
エレメントはそう呟きながら、ニクスの左腕をがっちりと掴み、そして容赦なく左へとねじった。
ニックスの身を守っていた幽霊の鎧が、鋭い音を立てて瞬時に砕け散る。振りほどこうとするも、腕はエレメントの鋼のような握力にしっかりと固定され、逃れることができない。
次の瞬間、エレメントの拳が、心臓を狙って一直線に突き出された。ニックスはとっさに胸元に円形の防御シールドを展開。
だが、その拳は鎧の中心を正確に打ち抜き、衝撃波が波のように広がる。それはまるで荒れ狂う海がぶつかるかのような衝突で、炎と雷のエネルギーが激しく弾け飛ぶ。
さらに水の奔流がそこへ追い打ちをかけ、ついに鎧を粉砕した。
三種の属性による怒涛の連撃がニックスの胸に叩き込まれ、致命の一撃を受けたニックスは、血を吐き出しながら、砕ける骨の音と共に吹き飛ばされ、後ろの大樹に激突した。
それでもエレメントの表情にはまだ不安が残る。
完全に仕留めるため、彼は浮かせた岩を操作して、ニックスを地中に埋めようとする。
その刹那──フィードが駆けつけ、エレメントの右腕を見事にロックした。
「まだ立てるのかよ……!」
だが、次の瞬間にはエレメントの拳が唸りを上げ、フィードは地面に叩きつけられる。
それでも彼は再び立ち上がり、ニックスに止めを刺そうとしたエレメントの腰を掴み、渾身の背負い投げで投げ飛ばした。
「お前ってやつは……本当にしつこいな!!」
苛立ちをあらわにしたエレメントは、蔓植物を操りフィードの身体を地面に縛りつけると、その胸の上にまたがり、左右から容赦なく拳を振るった。
何発も、何発も。
フィードの顔面に重く響く拳。視界がだんだんと黒く染まっていく。
「……この感覚……どこかで……」
懐かしさに包まれたように、彼の記憶がふと過去へと繋がった。
「ああ、そうだ……小学生の時だ……」
――忘れていた、幼き日の記憶が静かに蘇った。
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