第52話 13 月光の下の交響曲
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ニックスは夜空を舞うように飛翔し、その剣先から深い紫色の光が迸り始めた。
「確かに、俺の精度は致命的に低い……狙い澄まして一撃を当てるのは不可能だ。だが、正確さを捨て、魔力の奔流を限界まで高めれば──広範囲に、圧倒的な威力で薙ぎ払える!」
剣を振り抜き、闇夜を裂く声が轟く。
「交響曲──無限の月光!」
刃先から放たれた無数の弧月状の魔力刃が、夜空を支配する流星群のように斗篷の男へと降り注いだ。
「取るに足らん……」と余裕を見せ、左掌で一つの弧月を受け止めた刹那、掌中でそれが炸裂。瞬時に無数の小さな弧月が飛散し、幾筋もの光が彼の全身を切り裂いた。
頭上から次々と襲い掛かる斬撃に、男は大地へ手を突き立て、一息に大地を持ち上げるように隆起させて壁を形成する。その背後、瓦礫の陰が死角となった瞬間、シャーが音もなく彼の眼前に出現する。
その身体は再び姿を変え、巨大な懐中時計と疾走する無数の小時計が彼の周囲を舞い、時の流れを歪めていた。加速された時間により、手元の大時計から伸びる鎖が瞬時に男の体躯を絡め取る。
「チッ……!」と男が腕を振り下ろした刹那、足元に微細な魔法陣が閃く。
「タイムパス!」
呟くや否や、シャーは鎖の先と共に陣上に転移した。
その時、頭上から疾風が奔る。
「劈ッ!」
フィードが上空から右脚で斗篷の男の右肩を打ち抜き、その一撃で攻撃の流れを断ち切る。
直後、背後に影が閃き、ニックスが現れる。幽霊の鎧が瞬時に男を覆い、その魔力の爆発を封じ込める。
同時に、シャーの持つ大時計が眩い閃光を放つ。
「今の俺なら……時間魔法を発動しても、もうタイムインパクトは途切れない!」
ニックスが背後で刃を構え、フィードは天翔る軌道の先で目標を捕捉する。
「──流星ッ!」
「超震動ッ!!」
三者の必殺が一斉に炸裂し、夜空を切り裂く衝撃波が斗篷の男を貫き、激しい光と共に地平を揺らした。
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