第52話 12 俺と一曲、舞ってくれるか?
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シャーの身体が再び溶岩のように形を変え、灼熱の束縛を打ち破った。斗篷の男の攻撃が大地に叩きつけられ、土煙が夜空に舞い上がる。その隙を突き、フィードが一撃を胸に放ったが、まるで効果はなく、逆に自身の体勢に隙が生まれてしまった。
「その技、そっくりそのまま返してやろう。」
冷酷な声とともに、斗篷の男の蹴りがフィードの胸を襲う——が、その瞬間、閃光のような刃が軌道を遮った。
「おやおや、もう私のことを忘れてしまったのか?」
月光に照らされ、ニックスの影が戦場に舞い戻る。幽青の輝きが瞳に宿り、空を仰ぎながら、戦意に満ちた笑みを浮かべた。
「しかし、今夜の月は実に見事だな……ならばこの稀有な夜に、二人で舞おうじゃないか。」
その頭上に再び現れた幽霊王の冠が、幽火のように煌めく。
「ニックス……今はそのモードは維持できないんじゃ……?」
フィードの声には明らかな不安が混じる。
「今は……これしか選べないんだ。」
ニックスは自信に満ちた笑顔で斗篷の男との距離を取りつつ答えた。「大丈夫、星はきっと援軍を呼びに行っている。援軍が来るまで持ちこたえればいい。この村の長は、とびきりの強者だからな。」
フィードはその背中を見つめ、無意識に拳を握りしめる。
まただ……毎回、こうして最前線に立つのはニックスだ。俺は……何もできない。
なぜだ……なぜ俺は、彼のように強くなれないんだ?
焦りが胸を締め付ける。すぐに頭を振り、心を叱咤する。くそっ!考えている暇なんかない、今は戦闘だ!
斗篷の男が一歩踏み出すたび、雷光が全身を這い、低く呟く。「なるほど……これが王のモードというわけか。ならば、その力、見極めてやろう。」
瞬間、雷が爆ぜ、彼の身体が稲妻と化してニックスに襲いかかる。ニックスは冷ややかな光を纏った幽霊の鎧で迎え撃ち、刹那の攻防が火花と雷鳴を散らす。
その身体は次の瞬間、灼熱の炎に包まれ、背後から幾つもの火球が死角を狙って襲い来る。しかしニックスの動きは幻影のように、わずかな隙間を縫って華麗に回避した。
「この反応速度……そして攻撃力、なかなかのものだ。」
斗篷の男は冷ややかに言い放つ。「だが——やはり、決定的に足りん。」
彼が地面を踏み砕くと、鋭利な岩柱が蛇のようにニックスの首元を貫かんと突き上げ、周囲を完全に封じ込めた。だが、幽霊の鎧は瞬時に闇夜の翼に変わり、ニックスの身体は天へと舞い上がる。
冷たい夜風を胸いっぱいに吸い込み、ニックスは鋭い視線を斗篷の男に向けた。
「さあ……三日間の修練の全てを、ここで見せてやる。」
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