第52話 10 影纏う雷
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ニックスはその凄まじい衝撃に地面へと叩きつけられたが、次の瞬間にはすでに身体を起こし、鷹のように鋭い視線でただ一つの目標を射抜いていた。
「星早く隠れろ!」
鋭く張り詰めた声が空気を切り裂く。その言葉に応じ、星の全身に以前と同じ光沢を放つ鱗が一瞬にして浮かび上がり、銀白の輝きが身体を覆ったかと思うと、風に攫われるように一瞬でその姿が掻き消えた。
漆黒のマントを纏った男は、星が忽然と姿を消したのを確認すると、冷ややかな光を瞳に宿し捜索に移ろうとする。だがその刹那、フィードが猛獣の如き勢いで踏み込み、嵐のような拳風を伴ってマントの男の頭部へと打ち込む。
しかし、マントの男の反応は驚愕するほど迅速だった。足捌き一つで幽霊のように回避し、同じ呼吸の内に刃のような脚を閃かせ、雷鳴のごとき蹴りをフィードの頭部めがけて放つ。
「ガキィン!」
その攻撃を阻んだのは、灼熱の鉄鎖を操る溶岩の魔術師へと姿を変えたシャーだった。鎖は炎の火花を散らしながら巨蛇のようにうねり、強靭な力でその一撃を空中にて受け止める。焦げた空気が周囲に立ち込め、熱波が地面を揺らした。
そしてその背後に、すでにニックスの影が迫っていた。低く、冷徹に響く声が空気を震わせる。
「円舞曲!」
閃光のごとき剣撃が襲いかかる、その瞬間——マントの男の全身に絡みつくように木々の根が無数に迸り、身体を覆い尽くすと同時に爆ぜ、シャーの束縛を力ずくで引き裂いた。
だが、ニックスの攻勢は止まらない。幽霊化した彼の身体は防御の木々をすり抜け、必殺の軌跡を描きながら相手の急所を捉えんとしていた。
「これで決まる!」
胸の奥で確信が閃く。
だが、男も即座に危機を察知し、猛烈な後退で刃をかわす。そこに死角からフィードの攻撃が襲いかかるが、男の顔には微塵の動揺もない。左手が閃き、正確にフィードの手首を打ち抜き、その拳を封じると、勢いを乗せて身体を回転させ、左腕でフィードの左腕を締め上げ、右手で彼の首を鷲掴みにして地面へと叩きつけた。
「ジジジッ……!」
右手には雷光が奔り、轟く稲妻の音が空気を震わせ、次の瞬間には全てを焼き尽くすかのような殺意が迸る。
だが、フィードも決して抗うことを諦めない。両脚が鋼鉄のようにしなり、相手の首に絡みつき、絶命の死鎖を完成させた。そのまま腰と自由な右腕を同時に振り抜き、巨大な投石機のごとき爆発的な力で男を投げ飛ばす。
「はぁっ!」
男の身体が空を描き、鋭い弧を描いたのち——
「ドガァン!」
大地に激突し、衝撃で土煙が爆ぜ上がる。破片と砂塵が空へと舞い上がり、大地そのものが震えたように感じられた。
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