第52話 08 選び直す権利
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「信頼できる仲間がいると、本当に物事が何倍も捗るな……」
ニックスは空を見上げ、思考が風にさらわれるように遠くへと飛んでいった。ふと、自分がこの世界に転生したことは、果たして幸運だったのか、それとも不幸だったのか、心の奥で問いかける。
「ニックス、お前自身はどう思っている?」
リードが不意に問いかける。その声は、静寂に包まれた森の中で一際鮮明に響いた。
「正直に言えば、俺にもわからない……俺にとって、それは良いことでも悪いことでもないのかもしれない。」
ニックスは軽く首を振り、逆に問い返す。「じゃあ、リードはどう思っている?」
リードはしばし沈黙し、やがて柔らかな笑みを浮かべた。
「俺にとっては、これは人生をやり直すための新たなチャンスだったのかもしれないな。
知ってるか? 俺は前はごく普通のサラリーマンだったんだ。毎朝目が覚めても、頭の中は『金』と『仕事』ばかり。あの三年間は……中身のない殻の中で、ただ機械のように働くだけで、何の意味もなかった。
ある日、俺は大きな失敗をやらかして、会社を無慈悲にクビにされた。けれど不思議なことに、その日、絶望感よりも、最初の挫折が消え去った後に胸の奥から湧き上がったのは、言葉にできないほどの解放感だったんだ。」
彼は苦笑しながら、記憶の霧を突き抜けるような目で天を仰ぐ。
「あの時、ようやく気づいたんだ。この三年間、俺は本当に何もしていなかった。ただの社会の寄生虫みたいに、呼吸して生きているだけ。きっと当時、過度なプレッシャーで心が麻痺して、狂いかけていたんだろう……。
そして、気がつけば俺はこの世界に来ていた。今ならその理由がわかる気がする――これは俺にとっての救済だった。この場所は、俺にもう一度人生を選び直す権利をくれたんだ。
だから今度こそ、無意味な生き方だけは絶対にしないと決めている。」
ニックスは聞き終えて、少し呆然としたまま、小さく笑みを漏らす。
「リード、お前の言葉は本当に胸に響くな……それに比べると、俺の考えなんて平凡で笑っちゃうくらいだ。
俺は、この世界に来たことを不幸だと思っていた。でも同時に、それは俺にとって最大の幸運でもあったんだ。矛盾してるだろう?
不幸なのは、もう二度と家族に会えないかもしれないから。だけど幸運なのは、この世界で、全力で守りたいと思える存在に出会えたことだ。
もし俺がここに来なければ、彼女は今のような笑顔を見せられなかったかもしれない……だから、彼女を守れることが、俺には何よりも嬉しいんだ。
お前の話を聞いて、俺も思ったんだ。この世界に来たのは、幸運とか不運とかじゃなく、俺たちの人生にもう一つの『冒険の機会』が与えられたってことなんだな。
ここで出会った出来事や人々――その一つひとつが俺の心の中で、人生の大切な一部として刻まれて、俺をより良い自分へと変えてくれるはずだ。……そうであってほしいな、ははは。」
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