第52話 05 桜のように舞い散る
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やはり、俺は以前よりもずっと強くなった。
ニックスは静かに長剣を収め、その刃先に残る光が夕暮れの中で一瞬煌めいた。
「君の話で何度も耳にしてきたけど、実際にこの目で見るとやっぱり衝撃的だな……本当に、自分自身を超えてしまったんだね。」
リードは心からの笑みを浮かべる。二人は古びた幹に魔法陣が描かれた護符を慎重に貼り付け、淡い光が消えるのを見届けると、この任務も一区切りを迎えた。
「さあ、行こう。絶景を見せてあげる。」
二人は木々の間を抜け、湿った草の匂いを含んだ風を切り裂いて進む。やがて、甘い花の香りが漂い始め、最後の枝葉をかき分けると、視界に広がったのは――無限に広がる桃色の海だった。
無数の桜が風に舞い、花びらが霞雲のように空に溢れ、天を覆う。
「はぁ……まさか、こんな光景だとは。まさしく一面の桜の海だな。」
ニックスは驚嘆を隠しきれず、目を見開く。
「初めてここに来たとき、僕も言葉を失ったよ。この世界にも桜があるなんて思いもしなかった。今がちょうど満開の季節さ。僕らの世界とは咲く時期がまったく違うけれどね。」
リードは穏やかに笑い、ふと問いかける。「それで……君は今、自分の目標を見つけたのかい? それとも、やりたいことができた?」
ニックスが答えようとした瞬間、背後から突然、誰かに強く抱きつかれた。
「背後からの奇襲……?」
彼は即座に反応し、体をひねって抜け出すと、口元に自信の笑みを浮かべる。「この俺を不意打ちできると思うなよ?百年早いんだ、フィード。」
「ははっ、みんな来てたんだな。」
他の仲間たちも駆けつけ、その美しさに目を奪われる。
「こんなに広大な桜林……!」エリーサの瞳がきらきらと輝き、懐かしさが胸に込み上げる。「まるで、私たちの世界に戻ったみたい……シャー、覚えてる?子供の頃、公園で一緒に遊んだあの楽しい時間を。」
「覚えているのは、お前に悪戯され続けた惨めな記憶と……お前が泥に突っ込んだあの愉快な瞬間だけだな。」シャーは容赦なく毒を吐く。
「このっ……!捕まえたら許さないんだから!」エリサが怒鳴りながら飛びかかり、二人は懐かしいじゃれ合いを繰り広げた。
一方、星は古桜の木の下に静かに腰を下ろし、風に舞い散る花びらを見つめる。
フィードはこの世界にも桜を使った料理があると知り、興奮に目を輝かせていた。
ニックスは目の前の光景に視線を注ぎ、胸に温かい想いが込み上げる。そして、ふと振り返り、リードに向かって柔らかな笑みを浮かべる。「ああ、俺はもう自分の目標を見つけたよ――今、目の前にあるこの景色を、守り続けることだ。」
ニックスの言葉は風に乗り、桜の海のさざめきと共鳴する。清らかな香りに包まれ、天光に透ける花びらが、この瞬間を記憶の奥底に刻み込む。
リードはそんな彼を見て、自然と口元に笑みを浮かべた。「……本当に、君は大きく成長したね。」
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