第52話 04 弧を描く成長の物語
ニックスとリードは検査地点に到着した。湿った森の匂いが辺りに漂い、足元の枯葉がかすかに音を立てる。
「つまり、結界札が損傷していないか確認すればいいんだな?」ニックスが周囲を見渡す。
「うん、たしか……もう少し左に行けば……ほら、ここに――あれ?」
リードは立ち止まり、目の前の何もない大木を見上げ、眉をひそめた。「おかしいな、どうしてないんだ?」
「場所を間違えたんじゃないか?」ニックスが訝しげに問う。
「そんなはずはない……考えられるのは一つだけ――魔物に破壊されたんだ。」
その言葉と同時に、辺り一帯に息苦しいほどの魔力が湧き上がり、無数の敵意が闇の中で目覚めたかのようだった。ニックスとリードは視線を交わし、瞬時に警戒態勢に入る。
「ニックス、俺の後ろへ!」リードは片手で大剣を掲げ、緊迫した声を上げた。「お前は怪我が治っていない。全力を出せないんだろう? ここは俺に――」
「大丈夫、ここは僕がやる。」
ニックスは一歩前に出て、淡い笑みを浮かべながら、不思議なほど落ち着いた声で答えた。
「でも、お前の傷が――」
「心配いらない。この程度の敵なら……幽霊王を使うまでもない。」
言い終えるや否や、猟犬のような魔物が影の中から飛びかかり、鋭い牙がニックスの喉元を狙った。しかし、その爪は空を切り、まるで空気を掴んだかのようにすり抜けた。ニックスの姿がふっと揺らぎ、次の瞬間、冷たい銀光が走り――魔物は真っ二つに斬り裂かれた。
「幽霊化だよ。」
彼は低く呟き、剣先を周囲に次々と姿を現す魔物の群れへと向ける。
瞬間、ニックスの姿が残像となって消え、影が闇の中を駆け抜ける。刀光が閃くたび、魔物の体は細切れとなり、舞い散る血飛沫が空に紅の弧を描く。彼は敵の群れの中を舞うように駆け、冷たい死の円舞曲を奏でていった。
やがて夜空に鮮烈な紅光が走り、ニックスは足を止めた。熱風が渦巻き、久しぶりの圧迫感が胸を満たす。
「おお……これは懐かしい顔だな。」ニックスは天を仰ぎ、マグマに包まれた炎の巨鳥を見据えた。「この世界に来たばかりの頃、最初に出会った強敵じゃないか。」
剣を握る手に力がこもり、瞳に戦意が宿る。「さあ、今の俺の力を見せてやろう。」
火焰鳥は耳をつんざくような叫びを上げ、燃え盛る翼を広げて突撃してきた。
「――円舞曲!」
空中で二つの影が交差する。瞬間、火焰鳥の身体は燃え散る破片となって地に落ち、ニックスは無傷のまま大地に着地した。




