第52話 03 境界の点検任務
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五人の間に、まるで空気そのものが凍りついたかのような不気味な沈黙が広がっていた。
ニックスは背筋に冷たいものを感じ、三つの鋭い視線が氷の刃のように自分へ突き刺さっているのをはっきりと意識した。
「……今日が見学日だって言ったの、シャーだったよな?」
フィードが低い声で口を開き、その言葉には抑えきれない冷ややかさが滲んでいた。
「ニックス、これは許されないわね。」
エリーサは腕を組み、視線は鋭く突き刺さる針のようだった。
「失敗には代償が必要よ。今回のために出発前、きっちり三十分も準備したのに!」
「論理的思考……全くなってないな。」
シャーが淡々とした口調で冷ややかに追い討ちをかける。
ニックスの背中を冷や汗が伝い、体が石のように強張る。そんな時、後方から馴染み深い声がした。
「お、君たちここにいたのか。実は今日、見学の予定だったんだが、最近魔物が頻繁に出没していて、日程が急きょ明日に変更されたんだ。」
リードの姿を見た瞬間、ニックスの体から一気に緊張が解け、溺れる者が藁をも掴むように、彼の足にしがみついた。
「助かった!あと一秒遅かったら、あの三人の視線だけで僕、ズタズタにされてたよ!」
「……何を言っているんだ。」リードは呆れ顔で首を傾げる。「ところで、ちょうどいいところに来てくれたな。手伝ってくれないか?僕たちだけでは少し手が回らなくてね。」
「もちろん、構わないよ!」
ニックスは慌てて姿勢を正し、真剣な顔で尋ねた。「どうやって手伝えばいい?」
「単純だよ。境界線の周りにこの魔法陣が描かれた札を貼るだけで、魔物の接近を防ぐことができる。今は破損した札がないかを確認しているところなんだ。手伝ってくれれば、明日まで公開されない美しい景色を一足先に見られるぞ。」
リードは説明しながら、淡い青光を放つ札を取り出した。複雑な紋様の上には、微かに魔力が脈動している。
「この三十分の準備、絶対に無駄にはしないわ!――行くわよ!」
エリーサは言うが早いか、矢のような勢いで駆け出し、その後をフィードが興奮気味に追いかけた。
「じゃあ決まりだな、ニックス。君は僕とペアだ。」
リードは穏やかながらも有無を言わせぬ声で言った。「東南側の札が壊れていないか、確認しに行こう。」
「……はぁ、分かったよ。」
ニックスは小さく溜息をつき、内心でそっと祈った――今度こそ、何事もなく終わりますように。
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