第52話 01 微光の明日
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夢子は静かにその重厚な日記帳を閉じ、指先が最後の一頁にそっと留まった。そこには朝の光に淡い金色を帯びて輝く新しい一行の文字が刻まれていた。
「もう、あなたを忘れたりしない。こんなにたくさんのことを教えてくれてありがとう。」
文字を見つめる彼女の瞳には、ようやく未完成だった記憶を、命のキャンバスに再び描ききったような、安堵に満ちた微笑みが浮かんでいた。
翌朝、ニックスは古びていながら温もりを感じさせる木の椅子に一人腰掛け、部屋に差し込む斑な陽光に柔らかな輪郭を描かれていた。頭をかきながら、困惑と好奇心を滲ませた声で呟く。
「昨日一体何があったんだ? 今日、夢子がわざわざ君に会いに来るって。」
「教えられないよ……約束だからね。」
その声にはどこか神秘めいた響きと、ほんの少しの諦めが混じり、しかし口元には温和な笑みがかすかに宿っていた。
「でも安心して。悪いことじゃない。ただ……ちょっとだけ手を貸しただけさ。」
「わあ、これは意外なサプライズだね!」
ニックスは目を見開き、からかうような声色で言った。「てっきり君は、誰かを助けたいときでも必ず言い訳が必要なタイプだと思ってたけど……今回は素直に認めるなんて。いやあ、驚いたよ。」
「お前の想像するような奴じゃないさ、小僧。」
淡々と答える彼の言葉が終わるよりも早く、扉が「ギィ」と音を立てて開いた。
「ニックス! 知らないでしょ? 私たち、今こそ新しいファッションに着替えなきゃ!New Fashionよ!」
エリーサは胸を張って颯爽と部屋に入ると、鮮やかで装飾の派手な衣装を身にまとい、くるりと回って見せびらかした。
「見てよ、私のこの姿! とってもPrettyでしょ!」
「その喋り方……なんだか無性にイラッとするんだが。」
ニックスは額を押さえ、深いため息をついた。
「さて、もうこの街の美食攻略は全部まとめちゃったの! ニックス、一緒に新しい旅に出ましょう! 世界中のあらゆる美味しいものを探し尽くして、伝説の**“食の王”**を見つけ出すの! この栄誉は、私たち二人のものよ!」
フィードは目を輝かせ、興奮気味にまくし立てた。
「フィード、お前、何か変なものでも食べたのか……? それに“食の王”って一体何なんだ?!」
ニックスの額に青筋が浮かぶ。




