第51話 15 《君だけのケーキナイト》
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しかし、衝撃波の威力はあまりにも凄まじく、夢子の身体は地面へと叩きつけられ、土煙と飛び散る礫が周囲を覆い尽くした。彼女は必死に身体を支え、赤い唇の端からかすかに血を滲ませながらも、なお迫り来る銀甲の軍勢を睨み据える。
「……これしかない……!」低く呟き、杖を高く掲げる。
次の瞬間、森全体がまるで目覚めたかのように蠢き出し、巨木が生き物のようにねじれ、絡み合い、瞬く間に異形の幻惑の迷宮へと姿を変えた。その変化とともに、夢子の姿もまた霧散するように消え去る。
「そんな小細工で我らから逃げられると思うな!」隊長が冷たく鼻を鳴らし、叫んだ。「騎兵隊、あの技を使え!」
四人の騎兵が長槍を掲げ、槍先が交差した瞬間、まばゆい光が弾けた。交差点から生み出された魔力の環が、圧倒的なエネルギーを放ち、次の瞬間には黄金の光柱となって天を貫き、嵐のように森全体を薙ぎ払った。
夢子が築き上げた幻術の森は、炎に焼かれる紙片のように一瞬で消え失せた。
「……もう手は残されていないの……?」夢子が低く唇を噛み、瞳に冷ややかな光を宿す。「ならば、最後の手段を使うしかないわね。」
囁くような詠唱とともに、漂流魔法が発動し、囚われていた二人の貴族が瞬時に彼女の眼前に引き寄せられる。その声は静かでありながら、戦場全体に鋭い威圧を響かせた。
「全員、聞きなさい!これ以上一歩でも近づけば、この二人の命は保証できないわよ!」
兵たちは動きを止め、互いに緊張の面持ちで視線を交わす。
「卑怯者め、魔女!人質を解放しろ!そうすれば、苦しまずに済むかもしれん!」指揮官が吐き捨てる。
夢子は冷笑し、声に氷刃のような嘲りを滲ませた。「卑怯なのは、むしろあなたたちでしょう?何度も私の生活を踏みにじり、私を永遠に逃亡者として追い詰める……。私が屈するとでも?」
その時、遠方から密やかな光が走り、空気を裂くように魔法光線が放たれた。それは容赦なく夢子の腹部を貫き、彼女の身体を空中へと弾き飛ばす。
「……っ!」痛みに顔を歪め、鮮血を撒き散らしながら地面に叩きつけられる。
「何だと!?くそ、待ち伏せか!まさか魔力の気配を完全に消せる者がいるとは……!」兵士たちが一斉に夢子を取り囲んだ。
「生け捕りにしろ!これで我らは凱旋できるぞ!」隊長が狂喜の声を上げる。
夢子は唇を震わせながらも、どこか誇らしげに微笑んだ。「……確かに……一人なら、私はここで終わっていたでしょうね。だけど、私はもう一人じゃない。」
その瞬間、天を覆う影が舞い降りた。巨大なケーキが、奇跡のように夢子の周囲を包み込む。
「待たせたな、ドジ魔女!」――耳に馴染んだ声が、空に響き渡る。
夢子の表情が和らぎ、安堵に満ちた笑みが浮かぶ。「……遅いわよ、ザコ冒険者……。」
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