第51話 14 蒼雷の包囲戦
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「くっ、見つかった……!」
ムコは小さく悪態をつき、胸が一瞬ぎゅっと締めつけられるのを感じた。地を蹴った瞬間、彼女の身体は弾かれた矢のように宙を舞い、振り返れば銀光を放つ甲冑をまとった騎兵たちが戦馬を駆り、怒涛のごとく迫り来る。
「――幻影分身の術!」
瞬時に、ムコの身体は三つの虚実入り交じる幻影に分裂し、砕けた鏡の破片のように三方向へと疾駆する。背後では魔導士たちが冷笑し、両掌に眩い光球を凝縮させる。脈動するそれは、まるで小さな太陽。次の瞬間、光球は無数の光の欠片へと分裂し、流星の雨となって三人の幻影に襲いかかった。
――ドォン!
二つの幻影が直撃し、霧散。残された真のムコだけが孤独に半空を駆け抜け、追尾する光弾の鎖が容赦なく背後を追う。
「しつこいわね!」ムコは振り返り、指先から火焔の魔力を放つ。同数の火球が光弾群に迎撃され、半空で衝突。烈しい爆裂と共に爆煙が広がった。
煙幕が晴れるより早く、二人の兵士が霧を突き破り、巨大な剣を振りかぶって背後から襲いかかる。ムコの瞳に閃光が走り、即座に背後へ結界を展開。水晶のヴェールのように透き通った障壁が剣撃を弾き、衝撃波を吸収し跳ね返す。二人の兵士は反動で吹き飛び、地に転がった。
「っ……はぁ……」荒い息をつきながら、ムコはさらに高空へ飛翔する。地上の軍勢は既に包囲を完成させ、無数の魔法弾、氷槍、風刃が空を埋め尽くし、死の網を編む。ムコの目が細められ、身を傾ける。流星のような軌跡を描きながら、殺到する攻撃を掠めて回避し、反撃の火焔魔法を集束させ地上の魔導士たちへ撃ち込もうとした、その時――
周囲の空間に突如、幾つもの魔法弾が出現。瞬時に彼女を包囲し、一斉に炸裂――
轟音と閃光が空を裂き、衝撃波が爆炎と共に半天を覆う。
「――っ、くそ!」
ムコは歯を食いしばり、爆煙を切り裂きながら疾駆する。肩口のマントはすでに無残に千切れ、彼女は一気に引きちぎると、黒い裂片を風に投げ捨てた。今や彼女にできるのは、空中を縦横に駆け抜け、魔法障壁で四方八方からの猛攻を必死に凌ぐことだけだった。その姿は、嵐の目を飛ぶ孤独な鳥のようだった。
――その時、眼下の森に眩い蒼光が凝縮する。
濃密な魔力が臨界まで高まり、雷鳴のような轟きと金色の脈動が大地を貫いた。
「――魔導砲!」
地上から放たれた蒼の魔力光束が、天空を貫く龍のごとく吼え猛り、ムコを目がけて放たれる。周囲の空気が引き裂かれ、閃電と黄金の輝きが交錯し、世界が震撼する。ムコは全魔力を注ぎ込み、最後の防御障壁を展開――迫る破滅の光を、必死に受け止めた。
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