第51話 12 必ず戻ってくる。
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ホウ•ペイは安心させるような微笑みを浮かべ、次の瞬間、足元の土を跳ね上げながら身を翻し、疾風のように洞窟を飛び出していった。
「まったく……」夢子は小さくため息をつきながらも、口元にわずかな苦笑を浮かべた。「このザコ冒険者に希望を託すしかないのね……まあいいわ、今の私は彼の魔女様だから。」
彼女の繊細な指先が空をひと撫でると、瞬く間に無数の魔力粒子が星屑のように散り、やがて立体的な森の地図が宙に浮かび上がり、ゆっくりと回転し始める。
「……なんとか時間を稼がないと。運が良ければ、何人かは先に仕留められるかもしれない。ゲリラ戦でかき乱してやるわ。」
夢子は深く息を吸い込み、淡い蒼光を放つ魔法杖をしっかりと握りしめる。指先に集まる力が、空気との摩擦で小さな火花を散らした。
「……とはいえ、私の魔力出力なんてもともと高くないのよ。」
額にわずかな苦笑が浮かぶが、彼女は姿勢を正し、森の奥に身を潜める。
ほとんど瞬きする間もなく、密集した足音が潮のように押し寄せ、重い鎧の軋む音と抑えた声が交錯した。軍隊が、すでに幻影の森を完全に包囲していた。
「全員、聞け!」
隊長の声が雷鳴のように森一帯に轟き渡る。「貴族の御曹司から救援信号が発せられた! 今回の任務は、伝説の『不死の魔女』の探索だった。救援信号が出たということは、彼らが不死の魔女に襲撃されたということだ。我々の目標はただ一つ――彼らを救出し、不死の魔女を確保することだ!」
その目には鋭い光が宿り、声には熱を帯びた信念が込められている。
「今、世界大戦のさなかで兵力を十分に割けないのは承知の上だ。しかし、もし帝国が不死の魔女を拘束できれば、我々の戦力は飛躍的に強化される! 魔法石を巡るこの世紀の戦いで、勝率は格段に上がるはずだ。だからこそ――国のため、人々を救うため、この戦いに全霊を賭けろ! 一人残らず、百二十パーセントの力を出し切れ!」
「了解!」
数十名の兵士たちが一斉に声を上げ、その響きは森を震わせた。彼らは一瞬の迷いもなく長槍を構え、刃先が冷たい閃光を放つ。そのまま隊長の合図とともに疾風のごとく突進し、怒涛の勢いで森の奥深くへと踏み込んでいった。
夢子は呼吸を殺し、濃密な幻影の樹影に身を溶け込ませる。
その双眸には兵士たちの姿が映り、握りしめた魔法杖から指先に微かな震えが伝わる。
心臓が、静かに、しかし確かに高鳴っていた。
「……必ず、戻ってきてくれるんでしょう?」
彼女は心の中で、遠くを駆けるあの人に、深い祈りを捧げた。
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