第51話 08 あなたがいてくれたからこそ、生まれた時の流れ
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夢子はその言葉を聞いて、静かに頷いた。
「……うん、あなたの言う通り。私はたしかに、その人を蘇らせる力を持っているの。」
それを聞いたホウ•ペイは嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「じゃあ……私の両親を生き返らせることはできる? あの人たちは潔白なのに、報われることもなく死んでしまった。もしも、もしももう一度、生きることができたら……」
夢子はそっと目を伏せた。
「……でも、それには代償が必要なの。誰かを蘇らせるたびに、私は……死ぬの。」
ホウ•ペイの表情に衝撃が走った。その目は大きく見開かれ、言葉を失っていた。
夢子はゆっくりと語り始めた。
「あなたがたくさん自分のことを話してくれたから、今度は私の番だね。……短い話だよ。とても単純な話。私、自分がどうやって死んだのかも、もう覚えていないの。独りで死んだのか、それとも誰かに捨てられたのか……でもね、死にかけたときに、ある人が私を助けてくれたの。」
「その人は、私の心臓に“生”を与える何かを植え付けてくれた。絶え間なく命を注いでくれて、それで私は今も生きていられる。こんなにも長く……だから、私はある意味で“人間”でもあるの。」
話を聞いていたホウ•ペイは、再び驚きに満ちた表情を浮かべた。
「そうだったんだ……ごめんね、いろいろ聞きすぎたみたい。」
夢子は、どこか遠くを見るような目で微笑んだ。
「でもね……正直に言うと、こんなに長く生きてきて、ずっと寂しかった。誰にも寄り添えず、ただ生き延びているだけだった。自分が何をしたいのかも分からなくて、未来に何の希望も見出せなかった。でもね、あなたに出会って、少しだけ変わった気がするの。隣にバカがいるだけで、人生ってちょっと楽しくなるんだね。たまに美味しいケーキだって食べられる。」
夢子は、小さなナイフを取り出し、そっとホウペイに渡した。
「私が生きてきたこの何百年の命が、あなたのご両親にほんの少しの“清らかな人生”を与えられるなら、それでもういいかなって思う。本来私はもう“死んでる人間”だから、ここで終わるのも、悪くないと思うの。」
ホウ•ペイは震える手でそのナイフを見つめる。目に涙を浮かべながら、ぽつりと口を開いた。
「……だからって、だからって……何ひとりでブツブツ言ってるのよ!!」
ホウ•ペイは大声で叫び、夢子の言葉を遮った。
「私はそんなこと、絶対にしない。人を救うために、誰かが犠牲になるなんて、そんなの“救い”じゃない! 生きてる人間を犠牲にして、死んだ人を生き返らせるなんて、おかしいでしょ!」
「私はただ聞いてみただけだよ……でも、そんなに長い間苦しんでたんだね。ごめんね……私、全然気づいてなかった。」
ホウ•ペイは夢子をぎゅっと抱きしめた。
「いつも自分を犠牲にしようとしないで。あなたも大切な存在なんだから。私は、絶対にあなたを失いたくない。」




