第51話 07 「過去は過ぎて、今は君がいる」
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ホウ・ペイは黙ったまま、顔をしかめた。口元がゆがみ、目に映るのは軽蔑と嫌悪。まるで胸の奥から込み上げる何かを押し殺すかのように、低く静かな声で言い放った。
「……本当に、虫唾が走るような考え方だ。」
その声音は冷たく張り詰めていた。「俺はお前らなんか、絶対に助けない。永久にな。」
ゆっくりと背を向け、彼は一歩ずつ洞窟の入り口へと向かった。そして振り返ることなく言い添えた。
「大人しく、記憶を消される準備でもしておけ。」
「てめぇ、裏切り者かよ!」ケージの中から声が飛ぶ。「まさか……お前、あの魔女に誘惑されたんじゃないだろうな!?」
ホウ・ペイは洞窟の前で立ち止まり、空を見上げた。夜の帳がゆっくりと降りてくる中、彼の顔には微かに笑みが浮かぶ。
「誘惑、か……まあ、確かに。」彼はぽつりとつぶやいた。「俺は、あの自由で穏やかな暮らしに、すっかり心を奪われたのかもしれない。」
彼はくるりと振り返り、声を張った。
「おい、バカ魔女。そいつら二人の記憶、さっさと消してくれ。」
間もなく、怒気を帯びた足音と共に夢子が現れた。マントが風に揺れ、彼女は腕を組みながら怒鳴り返す。
「ちょっとそこの雑魚ケーキ冒険者!誰があんたに指図される筋合いがあるのよ!?今すぐやってやるわよ、そのクズ共の記憶、全部まっさらにしてやる!」
その間、貴族の二人はこっそり袖の中に隠していた装置のスイッチを押したが、次の瞬間、夢子の魔法で二人まとめて床に叩き伏せられた。
怒りに任せた夢子は、容赦なく記憶消去の呪文を唱えた。まるで見下すように、冷たく、そして鮮やかに。
「……ふぅ、すっきりしたわ。」と、彼女は満足げに髪をかきあげる。
ホウ・ペイは肩をすくめながら笑った。
「やれやれ……今のはまさに“悪の魔女”ってイメージそのものだな。」
でも、彼は少しだけ真剣な顔になり、続ける。
「でもさ……結果的にお前、あいつらを助けたのかもしれない。全部忘れちまった方が、今よりもずっとマシな人生を送れるかもしれないし。」
夕食時になっても、ホウ・ペイはどこか落ち着かない様子だった。言葉が喉元まで出かかっているのに、どうしても口に出せない。夢子はそんな彼の様子にすぐ気づいた。
「……何か話したいことがあるんでしょ?」彼女は茶碗を置き、少し身を乗り出した。「どうせ、あの二人に何か言われたんでしょ?」
彼女はわざと冗談めかして言い、ホウ・ペイの額を指先で軽く突いた。
「でもね、言いたいなら言いなさい。私は別に、今の関係が壊れるなんて思ってないわ。」
ホウ・ペイは深く息を吐き、決意を固めたように彼女の目をまっすぐ見つめて尋ねた。
「……お前、本当に、死んだ人を生き返らせることができるのか?」
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